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2020-07-22 00:00
「敵基地攻撃能力」の実像を直視せよ
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
自民党の防衛族議員を中心に「イージスアショアのような『迎撃システム』を否定するのならば、『敵基地攻撃能力』を有する『(攻撃型)兵器』が必要だ」という論が、勢いを増しているようだ。だが、これは立憲主義をないがしろにする主張であると同時に、現実から目をそらしている危険なアイディアであることを認識しなければならない。
まず、「戦争を永久に放棄した」日本国としては、「国際間の紛争を解決する手段」として、いかなる攻撃型兵器も所有することは憲法上許されない。故に、憲法上の理由から、移動型の海上イージスにしろ、陸上固定型のイージスアショアにしろ、イージスシステムを用いた兵器に力を入れている。撤回された後者も「専守防衛」の原則に納まっているからこそ計画されたものであるし、前者はすでに莫大な予算を投じて十分な数の8隻を保有する。そもそも、これは如何なる表現でオブラートに包もうとも憲法違反の「先制攻撃」論である。誰が敵であるかは措くとしても、言外に「敵」は核保有をしているということがこの種の議論ではア・プリオリに認めなければならない。そのような敵が、彼らの基地から核弾頭を付けたロケットを打ち出してくるときには、発射場を知られたままで発射するようなことはしない。移動発射台や、SLBMなども含めて手段を用意するであろう。こちらからあてずっぽうに先制攻撃を加えれば敵に容赦のない核攻撃の正当性を与えることになるだけだ。
これについては、在日米軍から「敵」基地情報を貰えばよいという意見が聞こえてくるが、すでにしてかくの如き外国依存の自尊放棄の思想は、過去100年一向に改善されない。また、首都圏だけでも日本国全人口の4分の1を占め、三大都市圏に50%が集中する人口配置を温存してきたこの国が、どうすれば核戦争に耐えて生き残れるというのであろうか。というのも、核戦争で勝利をおさめるためには広い国土と徹底的に薄い人口密度の戦後再建のための分散された復興人口が必要であるからである。そういう意味では、核を被弾して生き残れる非保有国は世界広しと言えども、オーストラリアくらいしかない。対して日本は居住に適する土地が少ない上に、その人口分布の過剰な集中と過疎は、核攻撃が損害を与えやすい特徴を備えている。東京・大阪などに1発ずつ炸裂するだけで、民族の生存・再生は望むべくもない。
となれば、近隣だけでも3カ国も核保有国がある安全保障環境では敵基地攻撃能力は通常兵器では成り立たないのだから、実質的に有効な「敵基地攻撃能力」とはもはや「核攻撃能力」と同義である。そういう結論しか出ない。はたして、日本も核兵器を互角に所有し敵が何処に隠れ潜もうとも殲滅できる核兵力を可能な限り大量に所有する覚悟があるのか。つまり、一周回って、畢竟、日本国憲法第九条が、日本人はもちろん、自民党の防衛族議員らが想定しているような「敵」に対してもまったく同じように、堅固な「防衛装備」であることを理解しなくてはならない。今、政治が語るべきは、今後とも長く続くであろう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との戦いに近隣諸国と協同して共に生存を図ることに尽きる。「下手な考え休むに似たり」である。
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