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2020-07-27 00:00
米中、体制間闘争へ転換点
鍋嶋 敬三
評論家
米国のポンペオ国務長官による演説「共産中国と自由世界の未来」(7月23日)は米中関係の基調が経済戦争から、共産主義独裁体制に対する自由・民主主義体制の闘争へと質的な転換を示すものである。ポンペオ長官は中国共産党政権を「マルクス・レーニン主義体制」と呼び、習近平総書記(国家主席)を「破綻した全体主義イデオロギーの真の信奉者だ」と断じた。そして「このイデオロギーこそ、中国共産主義による世界覇権という彼の数十年に及ぶ願望を特徴付けるものだ」と決めつけた。その上で「アメリカは米中間の基本的な政治イデオロギーの違いを無視することはできない」として、自由世界の結束ー民主主義国家群による「新たな同盟」の結成を呼び掛けたのである。
トランプ政権の対中強硬論が2020年前半に急速に強まったのは第一に中国・武漢発の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)の最大の被害国が米国で経済の悪化で失業者が激増、11月の大統領選挙を控え再選を狙うトランプ氏の支持率が低下、民主党候補指名が確実なバイデン元副大統領との差が拡大している情勢が背景にある。米国の国益を直接脅かす知的財産の窃取やスパイ活動、南シナ海の海洋権益の主張、新疆ウイグル自治区の人権侵害に加えて、香港の「一国二制度」を覆す国家安全維持法の施行に至って、総領事館の相互閉鎖という政治的対決路線が決定的になった。この2ヶ月間、政権の対中強硬策は矢継ぎ早である。ホワイトハウスは5月20日「中華人民共和国に対する戦略的アプローチ(USSAPRC)」と題する報告書を公表。対中イデオロギー闘争宣言を明確にした(5月25日付拙稿「イデオロギー正面に『米中冷戦』本格化」)。
7月13日にはポンペオ長官が声明を発表、南シナ海の島での領有権争いで中国の主権主張に対してハーグの国際仲裁裁判所が違法とする2016年7月16日の判断を「法的拘束力がある」と、米国としてはじめて支持した。米国は二国間の領有権紛争では一方を支持する立場をとらないという伝統的な方針を転換した画期的な声明である。これに先立つ6月17日には、中国外交トップの楊潔篪中国共産党政治局員とのハワイ会談が決裂した。自らの訪中(1972年)で米中国交への道を開いたニクソン元大統領は1967年に外交雑誌論文で「中国が変わるまで世界は安全ではない」、「アメリカの目標は(中国に)変化を引き起こすことである」と書いた。これについてポンペオ氏は「ニクソン大統領が望んできたような変化は起きなかった」と歴代政権の対中関与政策の失敗を断言した。ポンペオ演説に中国について「(怪物の)フランケンシュタインを作った」というニクソン氏の言及がある。これは「ツキディデスの罠」の紹介で知られるハーバード大学のグレアム・アリソン教授の著作(DESTINED FOR WAR, Can America And China Escape Thucydides Trap? 2017. p216)の中でも紹介された。元大統領が晩年、スピーチライターだった盟友で評論家のウイリアム・サファイア氏に「我々はフランケンシュタインを創り出してしまったかもな」と述懐したエピソードを念頭に置いたものだ。
ポンペオ氏は対中国闘争のため自由世界の「有志諸国の新たなグループ、民主主義諸国の新しい同盟」の結成を呼び掛けた。しかし、北大西洋条約機構(NATO)や日本、韓国など同盟国に法外な防衛分担金の大幅増額を要求してきしみ、世界保健機関(WHO)への拠出金停止や環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退で世界的に指導力を自ら低下させ、中国有利の情勢を創り出したのはトランプ政権ではないか。中国の経済的、外交的影響力が世界で強まっている現状を見れば、イデオロギー対決を米国が振り回すほど「空回り」しかねない。自由・民主主義世界の結束を言うなら、秋に米国が主催国になる先進国首脳会議(G7)の舞台が最もふさわしいはずだ。中国と同じ強権主義のロシアなどをG7の会議には入れずに、協力体制を取れるかどうかがトランプ政権の「新同盟」の成否の分かれ目になるだろう。
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