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2020-08-05 00:00
(連載1)トランプ擁護論に異議あり
河村 洋
外交評論家
7月に入って「百花斉放」「議論百出」「百家争鳴」の各欄において、ドナルド・トランプ大統領を擁護する論考が立て続けに見られました。しかしながら、それら意見表明のなかには事実誤認や認識のズレがあるものも見受けられます。まず「トランプ大統領がアメリカのサイレント・マジョリティーを代表している」との見解を示されたものがありましたが、2016年の大統領選挙結果はそれと全く逆で、総得票数ではヒラリー・クリントン候補の方が上回ったにもかかわらず、「クレイジー・マイノリティ」によってトランプ候補が選挙人獲得数を上回ったというのが実情でした。すなわち事実に照らせば、トランプ氏の当選はサイレント・マジョリティーの声を圧殺したことになります。今年の選挙に関しては、今後も不確定要素が多いので軽々しく誰が当選するか断定すべきでないことは言うまでもありません。
次にトランプ、バイデン両候補の大統領職への適性ですが、これについては上院外交委員会委員長など要職を歴任し、2012年にはバラク・オバマ大統領(当時)と議会共和党の対立を収めて政府閉鎖を回避したように調整能力も示したバイデン氏に分があります。こうした知識、技能、経験にトランプ氏では全く太刀打ちできません。ただし、両者の個人的資質以上に重要なことは、支持層の質です。先ほどトランプ氏の岩盤支持層を「クレイジー・マイノリティ」と記した通り、彼らはアメリカが世界に誇り、その思想や政策が「万国共通の教科書」にもなるような知識人層とは何もかもかけ離れています。言わば「アメリカの中の第三世界」とも言うべき人々です。
それに対して「アメリカの中のアメリカ」とも言うべきエリート層がこぞってバイデン氏支持であることを忘れてはなりません。常識的に考えれば、高い意識で国家と世界の中枢を担うような人々でなく、思想もビジョンもない不満分子の声が国政に反映されるようになることこそ、国家の衰退につながると思われます。そうした観点からすれば保守派の知識人が一斉にトランプ共和党から離脱するのも当然で、それへの裏切り呼ばわりは妥当とは思えません。もちろんバイデン氏にも不安な点はありますが、それは「老齢」ではありません。やはり彼に期待されていることは、トランプ政権下での「クレイジー・マイノリティ」支配からエスタブリッシュメントによるまともな政治にどこまで戻せるかです。それでも選挙対策となるとバイデン陣営からバラク・オバマ前大統領の影響を拭い去ることは難しく、民主党内左派への対処は注目すべき事柄です。
そうした中でロバート・ケーガン氏は独『シュピーゲル』誌2019年11月8日号のインタビューで「外交政策に関してはトランプ色に染まった共和党と民主党の左派が孤立主義に陥ってしまった現状で、バイデン氏は数少ない中道派で国際主義の有力政治家である」と指摘しています。これはきわめて重要な点で、たとえ保守主義者であっても我々がレッド・ステートの素朴な有権者に共感する理由はどこにもないことを強調しておきたいと思います。ただしジョセフ・ナイ教授が『プロジェクト・シンディケート』誌(7月6日付)で述べているように、実際にはアメリカ国民のほとんどは同盟国との関係も多国間協調も重視しています。すなわち、サイレント・マジョリティーはトランプ政権や民主党左派のような孤立主義を支持していないということになります。(つづく)
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