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2020-08-06 00:00
(連載2)トランプ擁護論に異議あり
河村 洋
外交評論家
にもかかわらず、選挙においては超大国の行く末をめぐって国論を二分する価値があるのか疑わしいような問題が争点となっています。こうした争点の多くはNIMBYで、国家統治のうえでの優先度が高い案件ではありません。その一例として妊娠中絶の是非が挙げられます。元々これはキリスト教右派のアジェンダでしかありません。国家権力を通じて彼らの宗教理念を全国民に押しつけることは、信教の自由を求めた建国の理念に反するばかりか、保守派の理念である小さな政府とも矛盾します。
そうした分断をさらに煽っているのがトランプ現大統領です。ちなみにこれまでのアメリカは「世界の警察官」であると同時に「世界の家庭教師」としてソフトパワーを主導してきましたが、トランプ政権下でその意志が失われました。もちろんバイデン大統領の登場によって全てが正常化できるという希望的観測を述べるつもりはありませんが、「わけのわからぬ群衆」の影響力から国家を守る役割を担えるでしょう。そうした公益性に鑑みれば、自分の業界の利益のためにトランプ氏を支持と思われるような記載は如何なものでしょうか?
最後に銅像問題に象徴される人種問題については、より大きな歴史的および文化的な観点から述べたいと思います。ブラック・ライブズ・マター(BLM)の抵抗運動による白人と黒人の対立激化は目で見てわかりやすいのですが、トランプ政権のレイシスト傾向、もっと限定すれば白人キリスト教ナショナリスト傾向に最も早くから警鐘を鳴らしてきたのが、ネオコンからリベラルまでのイデオロギー枠を横断するユダヤ系知識人であることを忘れてはなりません。ここで国際主義の観点からアメリカをユーロ・アトランティック圏に深く根差す国と見做すと、ヨーロッパで中世より迫害を受け、第二次世界大戦ではホロコーストの被害にあったユダヤ人がトランプ政権に警戒心は、黒人などの反トランプ感情にも増して重要と言えます。本稿で先に言及したケーガン氏も、そうしたユダヤ系知識人の一人です。
白人キリスト教ナショナリストは反自由主義、反グローバル主義、権威主義を掲げ、中世的なキリスト教伝統社会への回帰という価値観をロシアのプーチン政権と共有しています。ロシアは2016年のアメリカ大統領選挙ばかりでなく、イギリスのEU離脱国民投票などヨーロッパの政治に介入し、極右勢力を支援してきました。こうした動きに最も強い警戒心を示してきたのも、宗教の自由を求め近代啓蒙思想を支持するユダヤ系知識人です。
私が人種紛争などの内政問題や多くの国際問題で、一般の人達にも目立ちやすい黒人と白人の対立よりユダヤ系知識人の反トランプ論を重視すべきと考えるのは以下の理由からです。それは第一に彼らがパックス・アメリカーナの形成に重要な役割を担ってきたこと、第二に彼らのイデオロギーがネオコンからリベラルまで非常に広範囲にわたっていること、第三に彼らの主張が人類の普遍的な理念に基づき、明快で理に適っているということです。どういうわけか日本人の中にも熱心なトランプ支持者がいますが、我々にはレッド・ステートの素朴な有権者に共感する理由は何一つないことを重ねて強調したいと思います。(おわり)
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