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2020-08-24 00:00
安倍首相連続在職1位の課題
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三首相の連続在職日数が8月24日に2799日に達し、大叔父の佐藤栄作の記録(1964-72)を抜いて歴代1位になった。2012年12月26日の第二次安倍内閣組閣以来7年8ヶ月である。佐藤は日韓基本条約締結や沖縄返還を実現、ノーベル平和賞をも受賞した。政権後半に佐藤が「総理をやっていると、それらしくなるものだよ」と、私的につぶやいたのが筆者の耳に残っている。安倍首相が「それらしく」なったかどうかは世の判断に任せるとして、政権は「長きが貴からず」。自民党総裁としての任期満了(21年9月30日)まであと1年。評価は「何を実行したか」にかかる。英国のマーガレット・サッチャー元首相が2013年に世を去った時、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「戦後最も影響力のある世界的指導者の一人」と悼んだ。首相在任11年間という最長不倒記録を立て改革を断行して英国病を克服。ソ連からはその厳しい姿勢のため「鉄の女」の異名を奉られた。
日本の指導者に必要な条件は何だろうか?まずは人間の可能性を引き出す社会を実現する「夢」である。安倍首相とほぼ同時期に政権が発足した習近平総書記の「中国の夢」のようなナショナリズムに基づいてアジアの覇権を目指すという世界に緊張をもたらすものであってはならない。第二に、国民を引きつける「魅力」が欠かせない。魅力の源泉は難題を解決する意思の強さと、反対論者を納得するよう導く説得力である。これに基づく統率力と世論の動員力があってはじめて政治的多数派の形成が可能になる。第三に、世界の大局について冷静な判断に立つ戦略の構想力である。変化の激しい世界で日本の国民と国土を守り、繁栄を維持して行くのは総理一人の能力を超える。長期戦略の下、政策立案者の知見を結集して実行に移す指導力が問われる。国家のために「何をなしたか」という実績が最終的な評価になる。衆院議員の任期満了(21年10月)まで一年を残すのみ、衆院解散・総選挙も視野に入ってきた。残された時間は短く、重い課題は山積するばかりだ。
内政では、新型コロナウイルス対策で内閣の司令塔がどこにあるのか分からない長期政権の緩みとも言うべき状態が暴露された。内閣支持率は下がり続けている。コロナ対策のための超大型の補正予算の乱発で財政規律は統制不可能な領域に達したが、安倍首相には財政再建に国民の犠牲を求める重大決意が見られない。日本経済への直撃で2020年4月ー6月期の国内総生産(GDP)の落ち込みが戦後最悪を記録、年率換算で-27.8%となった。産業構造の転換、生産性の飛躍的向上のための新たな成長モデルを示さなければならない時である。安全保障政策では、歴代内閣がなし得なかった集団的自衛権の一部行使を容認する安全保障法制を2016年に施行したことは高く評価される。だが、中国やロシア、北朝鮮の軍事的脅威が強まる中で、日米安全保障体制を含めた抜本的な国家安全保障戦略の練り直しが急務である。
安倍外交で最も懸念されるのは、安倍首相の対ロシア、中国外交が首脳間の信頼関係に寄りかかり、日本の国益を損なう「融和外交」に傾斜していることだ。この二つの大国は自由・民主主義世界とは基本的に異質な権威主義、独裁国家だ。国連安全保障理事会の常任理事国でありながら侵略的な領土拡張行動を止めない。「プーチンのロシア」は第二次大戦終了の後に北海道の北方領土に進駐して軍事占領を続け、「習近平の中国」は沖縄県の尖閣諸島への領海侵犯、接続水域への入域を繰り返して「実効支配」の既成事実を積み上げて「中国領土」としての国際的認知を狙っている。このような首脳との間で「信頼」や「友好」は成り立ち得るのか?ニクソンが1972年訪中で米中国交への道を開いたのは、毛沢東との間で信頼関係が成立したからではない。米ソ冷戦、中ソ対立の中で米中ともに有利に立つための「打算」からであったことを肝に銘じたい。安倍首相は中露の「微笑外交」の裏にある狡猾な「信頼の罠」にはまってはならない。「歴史に名を残したい」という政治家の私的欲望は国家百年の損失を招くだけである。
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