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2020-09-12 00:00
「オープン化」思考に反する中国IT政策
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
トランプ大統領は、中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画共有アプリ「TikTok」のアメリカ人利用者の個人情報が中国政府に流れているのではないかという疑念から、ティックトックの米国事業を禁止か、または米国企業に売却するかの圧力をかけている。トランプ大統領一流の「難癖」、「強請り」の類と筆者は高を括っているにはいるのだが、もし彼が言うことが本当だったらという恐怖を一掃する自信はない。一国二制度を国際公約しておきながら平気でそれを反故にしてしまう強権政治の習近平政権のこと、有り得ないとは言えまいという不信感が背景にあるからだ。
中国生まれの「TikTok」は、アメリカ生まれの「YouTube」と並んで、いまや動画投稿サイトの間で若者たちの人気を二分する程の勢いを保っている。また、中国技術界はこの例のような面白おかしい遊びの話ではなくても、基本技術で華為(ファーウェイ)が開発した第五世代(G5)通信規格を実現したデジタル交換機についても、欧米との間で「不信」をテーマにして角逐や摩擦が起きている。そこでは、ことがIT交換技術の文字通りスイッチを担当する中核システムゆえ、ここを通過するパケット情報のすべてを監視しようと思えば原理としてできないことは無い。なにしろ自由と民主を標榜してきた当の米合衆国中央情報局(CIA)が国民を監視していたとする騒ぎは枚挙にいとまがない。アメリカにしてかくの如くとなれば、専制政治を専らとする中国政府が―と世界中の人々が不安視するのは理の当然である。その結果、華為は交換機だけでなく端末まで世界市場で不買の憂き目に遭っている。加えて、米国はもちろん日韓やEC各国へのキーパーツの供給を禁止する動きも起こっている。恨むべきは中国政府なのか?それとも「有りもしない濡れ衣」を着させている諸外国政府なのか?
IT産業を受け入れてから20年とは経たずの中国では、ITベンチャー企業がこの手のアプリを次々と世に出している。中国人起業家、技術者たちの能力は称賛に値するものの、その源流迄たどれば欧米からの学習と追い付け追い越せの精神がなせる業だ。なにしろ人口14億の国内市場を持つ大国のこと、これからもさまざまな先端製品を生むことであろう。しかし、これからは欧米など民主主義国家群から排除され、いつまでも国内市場や親中国国家群でしか通用しない運命に苛まれよう。習近平政権の続く限り世界標準へのアクセスは機会も権利も与えられないままに二流国家に留まり続けさせられていくのだ。「パックスアメリカーナ」の崩壊後に「パックス・シニカ(Pax Sinica)」はありえないとする政治学者の論拠もここにある。
IT業界は「オープン」を金科玉条の原則として、それに夢をもち、それを膨らませた若いエンジニアたちによって構築された。それが、資本の原理によって損得の世界にかすめ取られ、くわえて邪悪な資本家や政治に取り込まれて結局元の木阿弥。利権と欲望と専制の具に堕したのである。IT技術に関わった一人として筆者は、「オープン化」思考に反する国家方針を頑なとする習近平の中国政府に強く異をとなえたい。
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