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2020-09-23 00:00
(連載2)ポンペオ長官が唱える自由と民主主義は信用できない
河村 洋
外交評論家
イデオロギー戦争でのそうした一貫性の欠如は、ポンペオ氏の民主主義と人権に関する見解に由来する。ロバート・ケーガン氏が主張するように、彼はこれらの単語を自然法と普遍的リベラリズムというロック流の観点ではなく、ナショナリズムというハゾニー流の観点から理解している。この考え方は、西側同盟国のリベラル民主主義よりも、むしろプーチンのロシアで、権威主義的な伝統主義による統治の強化の邁進を謀っているウラジスラフ・スルコフ氏が主張する主権民主主義と軌を一にしている。日本の右翼は、ポンペオ氏とはナショナリストそしてリビジョニストという共通の絆を本能的に感じているものと思われる。そのことは、彼の有志連合には信頼性がなく、ジョン・マケイン氏が普遍的な価値観に基づいて作り上げようとしたものとは比べ物にならない。
非常に問題視すべきは、民主体制と専制体制についてのポンペオ氏の定義はフェアではなく、彼自身の独特な地政学的見解に基づいていることである。本年3月に国務省が“2019 Country Reports on Human Rights and Practices”を刊行した際に、ポンペオ氏は自身の演説で市民の自由への最悪の侵害国として中国、キューバ、イラン、ベネズエラを名指ししながら、他にも報告書に記載されていたロシア、トルコ、北朝鮮などには言及しなかった。彼のアンフェアな言動によって、アメリカの外交官集団と彼自身の間に深い亀裂があることが露呈した。さらに、トランプ政権は、ロシアの関与が強く疑われるアレクセイ・ナワルヌイ氏毒殺未遂事件にも沈黙を貫き、ドイツのように迅速に対応してクレムリンを非難するにはいたらない。マイケル・マクフォール氏はさらに「ロナルド・レーガン氏以来の歴代大統領は、ロシア訪問時にはクレムリンと反体制派双方の指導者に敬意を示してきた」と指摘する。しかし「トランプ氏とポンペオ氏は、ノビチョク毒攻撃(ナワルヌイ氏毒殺未遂事件)には何も言わぬままである」と批判している。同様に、ポンペオ氏は2018年にサウジアラビアが行なったジャマル・カショギ氏の殺害も非難しなかった。
一連のアンフェアな言動の他にも、ポンペオ氏の行動にまつわる倫理的な問題をさらに見てゆく必要がある。マックス・ブート氏が述べるように、ジェームズ・マティス国防長官をはじめとする「政権内の大人」達が退任してからというもの、ポンペオ氏はトランプ政権のイエスマンのリーダーとなった。それが典型的に表れた一件がエルサレムからの共和党全国大会へのテレビ中継参加である。そこで、リチャード・ハース氏からデービッド・ロスコフ氏にいたるまでのオピニオン・リーダー達は、トランプ氏の選挙運動のために福音派の歓心を買おうと、外交を政局化したと厳しく批判した。このような観点から、『ワシントン・ポスト』紙のジャクソン・ディール副編集長は8月31日付の論説で、ポンペオ氏を最悪の国務長官だと論じている。すなわち、「ポンペオ氏が職務規範への侵害を繰り返すために外交官集団の士気は史上最低にまで落ち込んでいる。中でもサウジアラビアに勝手に武器輸出を行ない、その後に監察官を解任した一件が目をひく」としている。こうしたやり方で、彼はアメリカ国内での民主主義を劣化させているのだ。
結論として、ジョン・ボルトン氏が回顧録に記したように、トランプ大統領が中国と貿易合意にいたれば、ポンペオ氏は、自由と民主主義といった自らの主張をあっさりと引っ込めかねない。よって、彼が掲げる大義など、無批判に信頼しない方が良い。他方で、我々は「ディープ・ステート」とは緊密に連絡を取り、「アメリカの真の意志」が何かを理解すべきである。そうすれば、アメリカの同盟国たちは、自国とアメリカの政策調整をどのように進めるべきかを模索できるからだ。アメリカ人でさえ、マイク・ポンペオという人物の扱いには難渋していることもあり、トランプ政権が続く限りは外交上のやり取りは難儀を極める状態にとどまるであろう。(おわり)
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