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2020-10-21 00:00
(連載2)菅首相の対露政策への提言――継承ではなく独自性を
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
2018年11月14日、安倍、プーチン首脳会談がシンガポールで行われた。その後安倍氏は記者団に対して「信頼の積み重ねの上に領土問題を解決し、平和条約を締結する。戦後70年以上、残された課題を次の世代に先送りせず、わたしとプーチン大統領で必ずや終止符を打つ強い意思を完全に共有した」と述べた。安倍、プーチン両氏が、自分たちで領土問題を解決して平和条約を締結する強い意志を完全に共有していると安倍氏はしばしば述べて来た。しかし、この発言の1年前、ベトナムのダナンでプーチン氏の記者会見が行われ、彼は「平和条約締結時に日露の首脳が誰であるかは関係ないし重要でもない」(2017年11月11日)と、ここでもまた安倍氏のメンツを潰すような、発言をしている。プーチン発言は、簡潔に言えば、自分の任期中に平和条約を締結する意図はない、と述べたも同然だ。この発言も、わが国のメディアはほとんど報道していない。
その後の経過を見ると、プーチン発言の通りとなった。安倍氏は幻想を振り撒いていたのだ。勿論、プーチンにとっては、安倍氏的の対露アプローチはこの上なく好都合だった。従って、ロシア指導部は、菅首相が安倍氏の政策を基本的に継承すると見て歓迎している。菅氏が首相になることが決まると、9月14日の報道では、プーチン氏は「安倍首相が対露政策では森喜朗元首相と相談(首相特使としてモスクワにも派遣)したように、菅氏が安倍氏相談して対露政策を決めることを期待する」と述べている。
ただ、菅首相は、基本的には安倍路線を引き継ぎながら、独自の立場を打ち出すとも述べている。ロシアの日本問題専門家も菅氏の「独自の外交的な立場をしっかりと構築したい」との発言に注目している(V・キスタノフ 『独立新聞』9.21)。安倍首相はシンガポールでのプーチン氏との首脳会談後、「56年宣言を基礎にして平和条約交渉を加速させることで合意した」と述べた。56年宣言を基礎と言うことは、小さい2島で手を打つと言ったも同然だ。しかし18年11月の首脳会談の翌日、菅官房長官は記者会見で「北方四島の帰属の問題を解決し平和条約を締結するというのがわが国の一貫した立場であり、この点に変更はない」と、はっきり述べている。9月14日にも、菅氏は、56年宣言の2島ではなく「4島の帰属問題を明確にして、平和条約を締結する」と述べている。これに対し前述のキスタノフは、菅氏は「4つの全島への言及を避けた安倍の立場に、新たなニュアンスを加えたことになる」と注目している。「4島の帰属問題を解決して平和条約締結」というのは、両国が合意した東京宣言(1993)の文言でプーチン氏も認めている(2001、2003)。ただこれは、帰属先を明記していない中立的な表現で、「4島一括返還」とは全く別のカテゴリーである。つまり一部の者が誤解しているような強硬論ではない。なお、シンガポール合意の日本語版では「……加速させる」となっているが、ロシア語では「……活性化する」で、急ぐ姿勢は全く無い。
私の述べたいことは以下の点である。①まず、ロシア指導部の発想法やメンタリティをリアルに理解すべきである。②菅首相は、対露政策においては無批判に安倍政策を継続するのではなく、困難であっても、是非とも独自の立場を保持して欲しい。②決して功を急がず、どんな逆風に遭ってもじっくりと構え、数十年単位の課題として取り組んで欲しい。(おわり)
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