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2020-10-21 00:00
日本人はなぜ「親トランプ」か
河村 洋
外交評論家
主要先進国の中では、日本人の「親トランプ」ぶりは際立っています。ヨーロッパ諸国でのトランプ氏の評価の低さを考えれば、これはやや異様とも言えます。そして本欄10月3日付けの寄稿で山梨大学の伊藤洋名誉教授が記された、国連に対する日本人の冷淡な見方にはトランプ政権の姿勢が影響しているとの見解は興味深いものであります。その原因としては、以下のことが考えられます。
まず第一に挙げるべきは中国の脅威で、日本近隣の安全保障のみならず国連諸機関での中国の影響力増大によって日本人の国連観がトランプ政権に擦り寄ってきています。多くの日本人にとってオバマ政権期のG2路線はトラウマであり、それが「対中強硬」に見えるトランプ共和党を受容する姿勢につながっていると思われます。その顕著な一例に、マイク・ポンペオ国務長官によるニクソン図書館への無邪気な信頼が挙げられます。その演説では香港とウイグルどころか、中国本土まで自由と民主主義を広めると謳われています。しかしここで留意すべきは、彼が唱える民主主義はハゾニー的ナショナリズムに基づき、リベラル・デモクラシーとは異質だということです。よって、ロシア、サウジアラビア、トルコなどへの宥和に見られるように、権威主義的な体制と安易に妥協するという「リアリスト」的な側面も否定できません。すなわちトランプ・ポンペオ外交がアジア太平洋地域の民主化に寄与するとは、とても考えられないということです。
皮肉にも日本人の間で親トランプ傾向が強い層は「親米国際主義者」ではなく、従来は「反米国粋主義者」であった人達と思われます。ナショナリスト志向が強い彼らは中国の台頭による日本の相対的地位低下を苦々しく思うばかりか、戦後民主主義を国辱視しています。トランプ氏の登場によって、そうした事態をひっくり返そうと願っているのでしょう。
さらに、以下に述べるように日本人と欧米の国際主義者には、問題意識を共有していない問題も多々あります。その内、第二に挙げられるべきは社会問題で、特にポリティカル・コレクトネスに関するものです。欧米社会では黒人、イスラム教徒、移民、LGBTなどへの差別が深刻な問題ですが、いずれも日本人の多くには対岸の火事です。第三は地政学的な問題で、欧米と違い日本ではロシアやイスラム過激派の脅威への関心が相対的に低くなっています。安倍前政権はセオドア・ローズベルトやウッドロー・ウィルソンさながらに「地球儀を俯瞰する外交」を掲げましたが、日本国民の深層意識はハーディングおよびクーリッジ両政権さながらの消極的モンロー主義にある可能性が高いでしょう。第四は吉田ドクトリン的な世界観で、日本国民は世界各国との経済関係を重視する一方で自国の安全保障を脅かさぬ限りは独裁政権に寛容でした。
以上に鑑みて、日本における親トランプ派の世界認識の間違いに言及したいと思います。まず戦後国際レジームの破壊が日本に好都合だという見解ですが、アメリカ・ファーストの政権にそのような期待を抱くことはきわめて危険です。また、アジア的な観点からは「親中」の民主党よりもトランプ共和党の方が望ましいとの見解も間違いです。むしろトランプ政権になってから米欧関係がかつてないほど悪化したことに典型的に表れているように、今や民主主義同盟は大きく揺らいでいます。安倍前政権はトランプ政権との「良好」な関係に基づいて米欧関係の仲介を模索しましたが、それは実現しませんでした。菅現政権にそこまでの大戦略眼があるのか、今後の動向を注視してゆきたいと思います。
いずれにせよ日本の将来を考えるうえで、従来のような日米同盟強化路線か対米自主独立路線かという問いかけには意味がなくなるでしょう。そして対中国恐怖症ありきで世界を眺めるのではなく、日本としてどのような世界のあり方を模索するのか「地球儀を俯瞰」して考えてゆく必要があると思われます。
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