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2020-10-23 00:00
「インド太平洋」にASEAN包み込む菅外交
鍋嶋 敬三
評論家
菅義偉首相の首脳外交は順調に滑り出した。10月18日-21日のベトナム、インドネシア歴訪では、日本が主導してきた「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の真ん中に東南アジア諸国連合(ASEAN)との「緊密な連携」を据えた。既に10月6日、東京での日米豪印4ヶ国(QUAD)外相会合でASEANに対する全面的支援に踏み込んでいる。茂木敏充外相はQUADの合意として「より多くの国々へ連携を広げていく」重要性を語っていた。日米豪印は東南アジア側から見れば「周辺国」である。ASEAN10ヶ国はアジア大陸と島国から構成されるが、いずれも北方の巨人・中国の強い影響力を受ける。中国をにらんで日米豪印が進めるFOIPもASEANの存在抜きでは成立しない戦略である。菅外交は「インド太平洋のハブ(中心)に位置する」(首相発言)ASEANにFOIP構想を打ち込んだ。だからこそ、菅首相に先立ってASEAN5ヶ国を歴訪中の中国の王毅・国務委員兼外相がFOIP構想について「インド太平洋版のNATO(北大西洋条約機構)構想を企てている」と非難したのだ。菅首相はそのような考え方を記者会見で強く否定した。
新政権発足後わずか1ヶ月の首脳外交先に選んだ2ヶ国はASEANの主要国である。ベトナムは11月の関連首脳会議で議長国を務める。中国とは南シナ海で領土紛争を抱え、中国公船による漁船の沈没事件が相次ぐ。インドネシアは国内総生産(GDP)で域内の40%を占める大国で強い影響力を持つ。ASEAN10ヶ国に対する日中のつばぜり合いが激しくなっている。中国の王毅氏は10月11日からカンボジア、マレーシア、ラオス、タイ、シンガポールの5ヶ国を回り、支持固めに懸命だ。カンボジアには新型コロナウイルスに対するワクチンの優先的供与を約束し、自由貿易協定の締結も合意した。
菅首相はハノイの日越大学での演説で、ASEANが2019年に発表した「インド太平洋アウトルック」がともに法の支配、開放性を行動原理としており、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想と共通性があるとして強く支持した。その上で、南シナ海ではこれに逆行する動きが起きており、「日本は南シナ海の緊張を高めるいかなる行為にも強く反対」と、この地域で領土拡張と軍事拠点化を強引に進める中国を批判した。そして「すべての当事国が力の威圧によらず、国際法に基づく紛争の平和的な解決に努力することが重要」と呼び掛ける一方、法の支配の確立のため「ASEANと手を携えて」いく姿勢を鮮明にした。経済協力のほか、安全保障関連でも防衛装備品・技術移転協定で実質合意(ベトナム)、東南アジア唯一の外務・防衛閣僚会合(2+2)の早期開催(インドネシア)も確認した。
首脳外交に合わせて、茂木外相はシンガポール、インドネシア、ラオス、カンボジア、オーストラリアの各国外相と電話会談し、首脳外交を側面支援した。10月20日には日本が共同議長を務める「太平洋・島サミット」の閣僚会合(テレビ会議形式)を開いて、日本と太平洋島嶼国との関係強化を図った。参加16ヶ国・2地域からはサモア、トンガ、クックから首相が、共同議長のツバルをはじめミクロネシア、オーストラリアなどが外相が参加した。この地域は第二次大戦前から日本、米国、豪州の関わりの深い地域であり、中国が経済力を背景に島嶼国に台湾との断交を迫り、米中対立の影響を受け始めている。首相歴訪中の10月19日、東京で開催した日豪防衛相会談で「太平洋島嶼国との協力に共同で取り組む」(共同声明)意思表明したのは、この地域の戦略的重要性を示すものだ。「自由で開かれたインド太平洋」戦略の中核は日米豪印だが、その領域の中心にASEANが収まる。日本は経済と海洋安全保障の両面で実のある協力を域内で積み重ねていくことでFOIP戦略も進む。11月中旬に予定されるASEAN関連首脳会議が試金石になる。
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