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2020-11-11 00:00
(連載2)「任命拒否」日本学術会議は行政訴訟で勝てるか
加藤 成一
元弁護士
次に、仮に学術会議側ないし任命を拒否された当事者側に「原告適格」が認められた場合に、本件「行政訴訟」の最大の争点は、特別職国家公務員である学術会議会員の任命につき、政府側に「裁量権」があるかどうかの問題であろう。この点については、公務員等の任免に関する多数の下級審判例並びに最高裁判例によると、公務員等の任免に関する行政処分につき、政府側ないし公権力側に明確に「裁量権」を認めているのが確定した判例の流れである(最小判平成30・7・19、京都地判平成18・6・20、大阪地判昭和58・2・24など多数)。これは行政行為の硬直化を避け、具体的妥当性を追求し確保するためである。ただし、判例は、「裁量権」の範囲を超えて逸脱し乱用された場合に限り違法としている。
上記の多数の確定した明確な判例の立場からすれば、内閣の「裁量権」を一切認めず、学術会議が推薦した会員候補はすべて拒否せずに内閣において無条件で形式的に任命する旨の1983年の「中曽根答弁」は、日本学術会議法7条違反、憲法15条1項違反、上記判例違反であり、法的に誤りである。「中曽根答弁」は優れて当時の日本学術会議を取り巻く特殊な政治情勢に基づく政治的判断に過ぎず、日本学術会議法7条並びに憲法15条1項等に基づく適正な法的判断ではない。なお、日本共産党などの一部野党は、憲法6条1項で天皇が「国会の指名に基づいて」内閣総理大臣を任命する場合に拒否権がないのと同様に、「学術会議の推薦に基づいて」なされる会員任命についても内閣に拒否権がないなどと菅内閣を批判している。しかし、象徴として実質的な政治的権能を有しない天皇による形式的任命行為と、内閣による会員任命行為を混同することは相当ではなく、裁判所は到底認めないであろう。
日本学術会議側が本件「行政訴訟」に勝訴するためには、会員任命につき内閣に「裁量権」が存在しない事実、及び仮に「裁量権」が存在しても内閣がこれを逸脱し乱用した事実を主張立証する必要がある。即ち、行政処分(行政行為)は仮に違法な行政処分であっても取り消されるまでは行政処分としての効力を有する所謂「公定力」があるから、行政処分の瑕疵(欠陥)を主張する学術会議側に瑕疵の存在を主張立証する責任がある。しかし、以上の通り、特別職国家公務員である日本学術会議会員の任命については、多数の確定した明確な上記判例の立場からしても、内閣に「裁量権」が存在することは明白である。そうすると、一部会員の「任命拒否」は、日本学術会議法7条並びに憲法15条1項等にも適合し「裁量権」の範囲内と解すべきであるから、特段の違法性は見当たらない。そのうえ、本件「任命拒否」について、内閣による「裁量権」の範囲を超えた逸脱や乱用を認めるに足りる適格な事実も証拠も存在しない。
よって、日本学術会議側ないし任命を拒否された当事者側による「行政訴訟」がもし行われたとしてもその仮定には勝算がなく、学術会議側の敗訴は確実と筆者は考える。日本学術会議の会員というのは、そういう性質を持った存在なのである。そして、日本学術会議の改革に取り組むにあたり、憲法15条2項の全体の奉仕者である国家公務員の中立・公正・公平の観点からも、会議の会員は研究者である前に特別職公務員の集団として省みるべき点が見えてきたはずである。特定の党派性を排除し、一方に偏らず、総合的俯瞰的に幅広い視野・見地から中立・公正・公平に政策や提言を評価・推進し、もって、日本の安全保障を含め国益を増進する活動を行うことこそが、国民のために全額国費で運営される国家行政機関である日本学術会議に課された崇高な使命なのではないだろうか。(おわり)
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