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2020-12-02 00:00
リニア計画、やめるなら今だ
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
国内鉄道各社が巨額赤字に苦しんでいる。最大規模のJR東日本は1,553億円とトップを記録。第二のJR西日本は767億円と民営化以後において過去最大の営業損益赤字を計上した。そしてJR東海の赤字726億円は初めての営業赤字となった。いうまでもないコロナ禍のためである。もちろん、原因がパンデミックによる密集や移動の制限によるのである以上これが収束すればふたたび乗客は戻ってくるだろう。戻っては来るだろうが、おそらくコロナ以前の状態に戻ることは、もう二度とないのだろう。それは、なぜか。時代の変化とは、ただただそういうものだろうからである。
パンデミックによる「死」の忍び寄る恐怖の中で、人々はさも無ければ決してやりはしなかった在宅勤務という「有り方」を体験してしまった。そして、それによる多くの欠陥も欠点もありながら、さりとてそれができて、それなりにメリットのあることをも学んでしまったのである。近代経済が社会を覆って、資本家によって雇われ、資本家が提供する場所と時間で労働をするという囲い込みが唯一の雇用関係であった歴史的慣行。それが一転して、労働者自らが用意する場所と時間で労働を提供するのでもよいという、労働様式が創造されたというのは、思えば革命と言っても言い過ぎではない。くわえて、結果全部ではないが、そこには積極的なメリットがあることも確認されてしまったのである。その中の大きなメリットとして出退勤に要するコストの解消が、金銭的にも精神的にも肉体的にもまた生産性としても確認できたということがあろう。
こうしてすべてではないが、勤務形態、雇用形態のダイナミズムは、コロナの前と後とでもはや後戻りできないおおきな変化を以後の歴史に残してしまったことである。その結果、鉄道事業にとっては、それがこの国で始まって150年にして、はじめて衰退の一歩となったはずである。つまり、あまつさえ人口を減らしつつあるニッポンで、鉄道利用者数が今後とも減少することが予想できても、鉄道需要が増えることはあり得ないということがはっきりしてきたのではないか。そういうとき、JR東海は東京・名古屋間の、静岡県北部の南アルプス連峰のごく一部地域を除く全域でリニア中央新幹線の建設工事を黙々と進めている。すでに、東海道新幹線の車内に確実な空席が見えてきた今、コロナ後を想像してみれば不要にして無益な努力を続けていることになる。
いま、JR東海も昨年までの飛ぶ鳥を落とす勢いはひとまず忘れ、思い切って工事を中止し、しばからく世の行く末を静観してみてはどうであろうか。筆者にはこの2011年に整備計画が決定して以来歩みを止めることが許されないかの如き大事業が、なにやら「インパール作戦」に見えて仕方がないのだが。そういう意味で、国土交通省も漫然とした後押しは控えるべきだ。そういえば、静岡県知事が必死で守る大井川がチンドウィン川にも見えてくるのである。
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