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2020-12-09 00:00
(連載2)日米開戦を「パワー・シフト理論」から読む
加藤 成一
元弁護士
このような事態は、それまでは一定の均衡を保っていた日米両国間の「パワー・バランス」を急激に変化させ、両国間の関係を一気に不安定化させるものであったことは明らかである。
戦争原因を究明する国際政治理論として「パワー・シフト理論」がある。これは、国家間の「パワー・バランス」が急激に変化した場合は、当該国家間の関係が不安定になり、戦争に発展しやすいとの理論である(野口和彦東海大学教授著「パワー・シフトと戦争」2010年東海大学出版会参照)。
具体的には、パワーの相対的な低下を自覚した国家は、「じり貧」になる前に、敵対国に予防戦争を始める可能性があるとされる。日米開戦の世界史的本質として、冒頭で述べた通り、中国及び東南アジアにおける資源と市場の争奪をめぐる、後進資本主義国である日本と先進資本主義国である米国との間の覇権戦争だったというのが一面にある。だが、それと同時に日本にとっては、急激な日米間の「パワー・バランス」の変化による両国関係の不安定化、悪化によって意図せず米国の「予防戦争」を招いたともいえるのではないか。つまり、中国及び仏印からの全面撤兵要求と全面石油禁輸措置で追い詰められた日本にとって、国家存立のための「不可避」な自衛戦争という側面もあったと評価すべきであろう。
さて、これを現代においてどう学びとすべきだろうか。上記「パワー・シフト理論」によれば、現在の「米中新冷戦」についても、将来、米国が中国にGDPなど経済力や軍事力で凌駕されるなど、覇権をめぐる両国間の「パワー・バランス」に急激な変化が起これば、米中両国の関係が一気に不安定となり、「米中戦争」の危機に直面する事態もあり得るであろう。また、中国による台湾武力攻撃や、尖閣諸島の軍事占拠も、中国の南シナ海・東シナ海などへの海洋進出に危機感を強める米国に対して、米国の台湾関係法3条や日米安保条約5条に基づく防衛戦争の「正当性」を与え、「米中戦争」の引き金となり得ることに注意すべきである。そして、将来至るやもしれぬこのような局面において、両国がともに自国の「正当性」を確信しているだろうことは疑いようがない。79年前の今日という日がそれをよく示しているのである。(おわり)
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