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2007-09-10 00:00
法治国と社会的制裁
大藏雄之助
評論家
前九州厚生局長が在職中に、妻どうしが従姉妹という関係の福祉事業者から高級中古車三台と多額の現金をもらい受けたほか、1千万円以上の借金をしたまま返済していないという事実が判明した。すでに退官しており、公務員倫理法に問うことはできないが、舛添厚労相は、退職金を返済させるなどの措置をとりたい、と言明した。「いとこ」というのは法律上結婚が許されているくらいだから遠い血縁である。金品授受の当事者がその配偶者ということになれば、もはや親戚とは言えないだろう。
多くの国民が、政治家や年金問題等の一連の不祥事とからめて憤慨していることは、マスコミの伝えるとおりであろう。羨ましい支援者がいたものだ。しかしながら、前局長の責任を追及するのであれば、数年前に福祉施設の許認可を担当していた課長時代に、便宜供与をしたかどうかを精査すべきであり、法規外の圧力を加えることは一種の人民裁判であって、法治国の原則に反する。
報道で知る限り、この局長は非常に正直な人のようであり、親類の援助に頼ることは許されると信じていたらしい。確かに兄弟姉妹でもまったく疎遠であることもあれば、遠縁者でも兄弟姉妹以上に親密である場合もある。
今回、前局長の相手が妻の父だったとしたらどうだろうか。また、悪賢ければ、自動車を譲り受けたり、住宅の建築・改造資金を借りたりする都度、返済計画付きの借用証をつくって、その通りに銀行経由で毎月送金する。だが相手方が元もと贈与のつもりであれば、振り込まれた返済金と同額を現金で返してやる。現金の授受は1回が十万円以下で、本人が口外しなければ、わからない。贈与税を免れるためにこうしたことをしている例はある。
刑事事件の判決で、「被告人はすでに社会的制裁をうけている」という理由で情状が酌量されることが屡々ある。けれども、犯罪者に罰を科すことができるのは司法だけである。それを超えた制裁はポピュリズムに過ぎない。
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