安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前夜に主催した夕食会を巡り、安倍氏側がホテルに支払う費用の不足分を補填していた問題で、東京地検特捜部は昨年12月24日、時効分を除く2016年~2019年までの4年分について、補填額を約708万円と認め、夕食会の収支約3022万円を政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反(「不記載」)の罪で後援会代表の公設第一秘書を罰金100万円とする略式起訴し、安倍氏は嫌疑不十分で不起訴処分とした。補填により有権者に飲食を寄付したとする公職選挙法違反(「寄付行為」)の罪については、安倍氏を含め被告発者全員を証拠不十分で不起訴処分とした。
安倍前首相は、これを受けて12月24日国会内で記者会見し、25日には衆参両議院の議院運営委員会で謝罪と弁明をした。それによれば、安倍氏は、補填の事実を認めたうえで、「補填及び不記載はすべて公設第一秘書が独断で行ったものであり、東京地検の捜査が行われるまでは全く知らなかった。補填を否定した事実と異なる国会答弁については深く反省し謝罪する」旨述べ、道義的責任は認めたが議員辞職は否定した。そして、報道によれば、質疑後の記者会見で安倍氏は「説明責任を果たしたと思う。次期衆議院選に出馬し、国民の信を問いたい」旨述べた。
しかし、仮に安倍氏が主張する通り、自身が補填及び不記載の事実を全く知らず、補填及び不記載がすべて当該公設第一秘書の独断で行われたとしても、補填行為を行い、その上、補填の証拠である数年分の補填領収書を廃棄したとされる当該公設第一秘書等に対する監督責任や、国会での度重なる客観的事実に反する答弁など、安倍氏の政治的道義的責任は免れないであろう(2020年12月1日付け「百花斉放」掲載の拙稿「『桜を見る会』を巡る刑事責任と道義的責任」参照)。上記の記者会見及び議院運営委員会での質疑を見ても、安倍氏は、補填疑惑に関して長期にわたり国会で野党各党から厳しい追及を受けながら、単に、担当公設第一秘書等に対して補填の有無を確認しただけであり、みずから進んで他の秘書等を介するホテル側への問い合わせや、ホテル発行の経費明細書や補填領収書等の有無・内容の確認など、容易に可能であるにもかかわらず、補填疑惑解明への真剣な努力を行っていない。いわば、担当公設第一秘書等による「事実に反する説明」を何らの疑問も持たず、すべて鵜飲みしていたに過ぎないことになる。加えて、根本的には、毎年200万円前後にも上る金額の支出を伴う公選法違反の恐れある危険な補填行為を、当該公設第一秘書が安倍氏に一切相談せずにすべて独断で行い、その上、長年にわたって安倍氏に秘匿し続ける特段の理由や動機は経験則上も乏しいと言えよう。
このように、長期にわたり国会で厳しく追及されても、安倍氏自身が補填疑惑解明への真剣な努力を行っていない事実を見ると、安倍氏自身もいずれかの時点で、補填の事実を知っていた疑いも否定できなくなる。なぜなら、仮に、安倍氏が補填の事実を知っていたとすれば、補填疑惑解明への真剣な努力などは全く不必要になるからである。第二次安倍政権の内政・外交における政治的功績は小さくない。しかし、安倍氏の事務所や秘書への管理監督責任の懈怠、並びに国会での長期に及ぶ客観的事実に反する数々の答弁、補填疑惑解明への真剣な努力を怠ったことなどを考えれば、一国の政治リーダーである内閣総理大臣だからこそ、なおさら、安倍前首相には秘書を含む法令順守や政治倫理に関する責任は重いのであり、この際、潔く「議員辞職」し再起を図るべきであろう。