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2021-01-08 00:00
自由、民主主義の旗を高く掲げよ
鍋嶋 敬三
評論家
2001年の米同時多発テロから今年で20年。暴力、武力による自由と民主主義という価値観や制度の否定の皮切りであった。テロの脅威はなお続いているが、自由主義、民主主義世界はさらに強力な中国やロシアなどの国家による独裁、権威主義、領土拡張主義という挑戦に直面している。安倍晋三内閣の突然の退陣を受けて2020年9月16日発足した菅義偉内閣は4ヶ月目を迎えた。内政では新型コロナウイルス禍に翻弄され続け、1月7日には一都三県に緊急事態宣言を発出した。「前例主義打破」を打ち出しながら日本政治に特有の「小出し、後手」の悪い癖が出て、専門家の警告にもかかわらず爆発的な感染拡大を抑えることができなかった。菅首相が得意とは言えない分野の外交では「尖閣危機」に象徴される安全保障上の中国の脅威を跳ね返し、国の安全を守る強い意志と実行力を示さなければならない時だ。香港の民主派弾圧、国内少数民族への圧政など習近平政権の独裁、権威主義体制が国内外に問題を引き起こしてきた。菅首相は「自由、民主主義、法の支配に則った世界秩序」の旗を高く掲げるべきである。
外交の基調は日米同盟である。1月20日に大統領に就任するジョー・バイデン氏との首脳会談を早急に開く必要がある。最重要テーマは多国間協調体制の立て直しと同盟関係の再調整である。トランプ政権が離脱した環太平洋連携協定(TPP)、世界保健機関(WHO)、気候変動のパリ協定やイラン核合意などはリベラルな国際秩序を体現した国際体制や合意であり、早急な復帰を米国に働きかけるべきである。トランプ政権で傷付いた米欧関係の修復が世界の平和に欠かせない。欧州もユーラシアへの中国の「一帯一路」構想の浸透によって、その拡張主義に警戒感が強まり英仏独など主要国がアジア太平洋に目を向けてきた。
中国の存在は経済的にも軍事的にも世界で大きな影響を与える。英国のシンクタンク「経済ビジネス・リサーチセンター」は2020年12月に中国は2028年までに米国を追い越して世界第一の経済大国になるとの予測を発表した。コロナ禍にもかかわらず中国経済は2025年まで年間5.7%、2026年~2030年までは年間4.5%の成長が見込まれる(ロイター)。米政府の国家情報会議(NIC)は2012年に早くも、中国が2030年の数年前には米国を追い越して世界最大の経済大国になると予測していた。自信を付けた中国は2020年11月、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の署名に持ち込み、その5日後に習近平主席はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でTPPへの「積極的参加を検討」を初めて明言した。米国も参加していたTPPは関税自由化や知的財産保護などのルールが厳格だ。習発言には対米関係をにらんだ思惑もあると見られるが、習主席はかねてから参加に積極姿勢を見せており、国内制度との兼ね合いで困難が予想されるものの、多国間のネットワーク構築に乗り出している習政権の外交戦略として軽視すべきではない。
菅首相は初の所信表明演説で「価値観を共有する国々と連携、法の支配に基づいた自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す」と述べ、1月4日の年頭記者会見でも繰り返した。自由と民主主義という価値観を同じくする欧州、アジアの諸国の参加を得てグループとしての存在意義をいかに高めるかが課題だ。国際平和体制への重要なステップであり、日本の積極的平和外交の軸である。1989年の天安門事件では先進7ヶ国(G7)の中で日本だけ公然と対中制裁に反対し、あまつさえ天皇訪中まで実行した。このような対中融和政策がその後の人権抑圧に手を貸し、価値観をめぐる日本への不信感が米欧に定着したのである。菅首相は習主席との電話会談(9月25日)で「日中関係の安定にともに責任を果たしたい」と述べたが、自由主義、民主主義という価値観を異にする中国との関係において、日本の旗幟を鮮明にすることが自由世界の指導者の責任として極めて重要である。
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