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2021-01-11 00:00
(連載1)アメリカは世界からの信頼をどのように回復すべきか?
河村 洋
外交評論家
去る11月の大統領選挙は、アメリカ・ファーストを掲げたドナルド・トランプ氏の落選に終わった。外交政策は一般の有権者にとって優先事項ではなかったものの、トランプ氏の非リベラルでゼロサム志向、そして取引優先の孤立主義がきっぱりと拒絶されたのだ。しかし中道派のジョセフ(ジョー)・バイデン氏の当選は、世界の中でのアメリカの指導力の再強化への始めの一歩に過ぎない。大統領選挙に先んじて、レーガン政権期のジョージ・シュルツ元国務長官は『フォーリン・サービス・ジャーナル』誌の昨年11月号で、国際社会からアメリカ外交に対する信頼を醸成するための指針を示している。最も重要なことにシュルツ氏はレーガン・ゴルバチョフ間のやり取りと現在のゼロサム外交との比較を通じ、外交における信頼の意味を模索している。元長官は特定の大統領への批判は控えているものの、『ワシントン・ポスト』紙はその論文をトランプ政権への批判が暗示されたものとして受け止めている。
まずシュルツ氏は信頼に関して、個人的な友情と政府間の関係を明確に区別している。国家間の関係において信頼とは誠実性以上のもので、合意内容の実施に尽くすだけの意志が不可欠である。元長官はレーガン政権がソ連のミハイル・ゴルバチョフ議長も核兵器に関する懸念を共有し、共通の目的を引き受けて相互の合意を実施するうえで信頼に足る人物であることがわかった時を述懐している。『ワシントン・ポスト』紙は昨年10月31日付の論説で、シュルツ氏が「この4年間はアメリカの対外関係はゼロサムのゲームであり、しかもそうしたゲームが各国指導者との個人的な関係に基づくと考えるような政権が外交を取り仕切り、それが国際的な不信感を高めている」と記した一文への注目を呼び掛けているのは、それによって意思決定のプロセスが一貫性を持てなくなり、政府が外交政策を実施する能力が制約されるようになったためである。大統領による突発的なツイッター投稿で事態はさらに悪化してしまった。
国際システムの変遷が経済、テクノロジー、パンデミックといった新たな課題によってもたらされたことに鑑みて、シュルツ氏はアメリカには巧みな外交とビジョンのあるリーダーシップを駆使して影響力を維持し、「自由で開かれた」世界を作り上げる必要があると主張する。さらにアメリカには歴史を自らの価値観と国益に適合させることが容易になるような戦略的思考が必要だとも述べている。しかし今のアメリカは外交努力に尽力するよりも軍事的脅迫に頼り、中国とロシアに対する第二次冷戦が近づく中で全世界的に反米感情を高めている有り様だ。
ジョセフ・バイデン氏は世界からの信頼をどのように再構築してゆくのだろうか? 国際世論はトランピズムには不満を抱いているが、バイデン氏の外交政策での優先課題が自分達の死活的利益と適合するかどうかを慎重に見極めようとしている。ヨーロッパ諸国と違ってアジア諸国は目の前にある中国の脅威を、気候変動、民主主義、人権などよりもはるかに重大な課題と受け止めている。バイデン氏が世界にどのようなビジョンを抱いているのか、昨年の『フォーリン・アフェアーズ』誌3月・4月号に寄稿された彼自身の言葉から見てみよう。この論文の冒頭で、バイデン氏は高らかにトランプ流の孤立主義を打ち捨ててアメリカの指導力を回復し、中国やロシアなどの挑戦者を牽制すると謳い上げている。その論文から印象付けられることは、バイデン氏は自らの外交政策で地球温暖化、大量移民、パンデミックといった市民の健全な生活に関するグローバル問題を優先課題としているということだ。またトランプ氏が蔑視した民主主義の拡大についても、アメリカ外交の重要課題であると再確認している。これはアメリカと国際社会、中でもヨーロッパ同盟諸国との信頼の再構築には好ましいことである。(つづく)
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