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2021-01-12 00:00
(連載2)アメリカは世界からの信頼をどのように回復すべきか?
河村 洋
外交評論家
しかし米国の示す「高尚」な政策課題は多くのアジアおよび湾岸アラブ諸国にとって贅沢なものだ。それぞれが中国やイランと厳しい地政学的な衝突で対峙する最前線にある現状ではこれらの贅沢な悩みは優先事項ではなく、バイデン氏の多国間主義や国際協調を、こうした国々は対立国に対して妥協的だと捉えるだろう。またバイデン氏がアメリカの指導力回復を掲げようとも、実際には引き続き内政問題に忙殺されるだろう。実際に次期大統領は国内の民主主義再建を優先度の高い課題に挙げている。
しかしそれをもってバイデン政権が内政志向だととらえるべきではない。現下の国際情勢にあって、専制的な競争相手国がアメリカ国内での政治的な分裂を利用して民主主義の理念を弱体化させようとしていることを、次期政権は認識している。例えば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は欧米諸国民への情報攪乱と極右への支援によって西欧リベラリズムの信頼を失墜させる試みを通して大西洋同盟の弱体化を謀っている。このような企みに対抗するものとして、次期大統領が掲げる「中産階級のための外交政策」では、米国民の生活を中国から守るために経済とテクノロジーの分野で妥協なき競争をしてゆくことが意図されている。このように、バイデン氏の外交政策をオバマ前大統領流の「国内再建」優先のハト派路線と同一視することは性急である。
バイデン氏の外交政策をさらに理解するために、次期政権の国務長官に指名されたアンソニー・ブリンケン氏とロバート・ケーガン氏が、先の選挙前年の『ワシントン・ポスト』紙(2019年1月2日)に共同で寄稿し、「トランプ氏のアメリカ・ファーストによって外交当局による予防外交と抑止の取り組みが水泡に帰してしまう」と主張した論文を見てみよう。アメリカの外交当局は、インドとパキスタン、イスラエルとアラブ諸国、中国と日本など地域大国同士の戦争を抑止し続けている。予防と抑止とは反対に、トランプ氏は特にロシアのクリミア併合に見られるような戦略的競合国の勢力範囲を認めてしまい、大国間の地政学的な競争にさらに拍車をかけてしまった。両専門家が言うように、アメリカの有権者は「適切な権限を与えられればアメリカの外交当局は数兆ドルの予算節約と数千人の人命救済ができるが、さもなければまだ危機が対処可能な段階で問題を見過ごして後で高くついてしまうことになるだろう」ということばに耳を傾けるべきである。ブリンケン氏とケーガン氏が主張する外交ならば、アメリカが国際世論からの信頼を回復するために一役買えるであろう。
最後に、アメリカと国際社会の信頼関係は相手が友好国であれ対立国であれ、相互で成り立つものだということを銘記すべきである。アナス・フォー・ラスムセン元NATO事務総長は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙(2020年12月5日)への投稿で、ヨーロッパからの視点として「アメリカは民主主義世界への関与を再保証する必要があるとする一方で、ヨーロッパ同盟諸国は国際安全保障での責任をもっと積極的に引き受け、アメリカの有権者の左右双方にある被害者意識からの孤立主義の気運を刺激しないようにすべきだ」と語っている。本論冒頭でシュルツ氏が自身の論文で掲げる信頼の概念は、アメリカと全世界の同盟国の双方にとって重要である。また、トランプ氏が品性に欠ける発言をし続けたために、アメリカにとって最も重要なパートナーとなる国々との信頼が損なわれたことも忘れてはならない。嘆かわしいことにトランプ・リパブリカンの人達はこれをスタイル問題に過ぎないと言って軽視している。彼らはレーガン・リパブリカンのシュルツ氏とは全く対照的で、筆者は落胆を禁じえない。(おわり)
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