1月上旬の日本では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急激な新規陽性者数の増加が見られた。押谷仁教授は、これを「疫学的に見ると異常な増え方」(2021/01/08、ABEMA TIMES)と描写した。もともと年末年始の休みで、検査数のムラがあり、統計が読みにくい時期ではあった。それでも新規陽性者数の激増は数日にわたって観察できたので、事実として激増が発生していたことは確かだろう。問題は、この激増が、突然の指数関数的拡大の開始を示していたのか、一時的な傾向だったのか、だ。結論から言うと、後者であったと言える。新規陽性者数は、この一週間では減少傾向に入っている。少なくとも指数関数的拡大が継続しているようには見えない。私が素人なりに継続モニタリング用に作っているメモ代わりのグラフを見てみよう。7日移動平均を前週の同じ曜日と比較した際の増加比をグラフ化したものである。
(筆者作成:7日間移動平均の週単位の増加比の推移)
これまでは、もう少し繊細な感染拡大のスピードを可視化するために用いてきたグラフだ。過去2週間の動きは、あまりに劇的すぎるように映している。年末年始のムラが影響しているところもあるのだろう。だが、それでも押谷教授が言う「疫学的に見ると異常な増え方」があったことは確かだと思われる。そしてそれは、今は反転してきている。もちろんここまで劇的な増加と反転であると、東京都の通常の7日移動平均の曲線などでも、同じような傾向は見てとれる(ただし一度市中の陽性者数が増えてしまうと、一時的な激増傾向が収まった後もすぐには絶対数は元には戻らないので、増加比ほどには劇的には映らない)。
なぜ1月の上旬にこのような異常な激増と反転が見られたのか?私が、過去10ヵ月ほどの間の観察で強く感じているのは、新型コロナの感染拡大は、非常に人間的な営みだ、ということだ。どう見ても、何らかの宇宙の運動法則や定期的な周期にそって感染拡大が起こっているようには見えない。もちろん、気温や乾燥の影響なのか、換気の困難なのか、夏より冬のほうが感染拡大しやすい、といったレベルの傾向は世界的に確認できる。予測もされていた。だが週単位や月単位の感染拡大の動きを、科学的法則として説明することは、不可能ではないか。より多くの人間が、感染しやすい行動をとれば感染は拡大する。逆であれば、逆なのだ。
10月末に「第三波」の発生が確認されて警告が出されると、11月に新規陽性者の拡大は顕著な鈍化の傾向を見せた。人々がよりいっそう警戒したからだろう。ところが12月に入ると増加傾向に転じた。尾身茂・分科会会長が丁寧に説明してくれているが、忘年会シーズンに入り、飲食の機会を通じた感染が増えたのである。新型コロナの潜伏期間は2週間と言われるが、ほとんどの発症者は5日程度で症状を見せるとも言われる。12月の新規陽性者数の増加傾向は、クリスマスの会食機会の影響が見られるはずの12月末日まで続いた。その後に発生した1月上旬の「疫学的に見ると異常な増え方」は、このように考えると、年末年始、特に正月の会食機会の影響だった、と考えざるを得ない。数多くの日本人は、コロナ禍であっても、正月を正月として過ごす選択をした。その結果、「疫学的に見ると異常な増え方」が発生した。そう見るべきではないか。逆に言うと、正月の影響は、一時的なもので終わる可能性がある。もし数多くの日本人が特別な時期は終わったという感覚を持ち、これまで同様の感染予防に努める生活に戻れば、少なくとも「疫学的に見ると異常な増え方」は終わってくると想定できる。実際に、その反転現象が、先週に確認されたように見える。(つづく)