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2021-03-04 00:00
(連載2)米国の長期的対中戦略「新X論文」の概要
松川 るい
参議院議員
3.習近平の戦略目標は以下のとおり。
・米国を技術力で凌駕する。
・ドル覇権を崩す
・台湾、南シナ海、東シナ海において米国と同盟国の介入を抑止できるレベルの軍事的能力を備える
・中国に傾いている国々を中国側に引き寄せる
・ロシアとの関係を改善し、米国が中国からロシアを引き離せないようにする。
・一帯一路を中国の地政学的影響圏に変えていく。
・国際機関における中国の影響力を拡大し、人権や国際海洋法などについて中国にとって都合の悪いアジェンダを中国にとって都合の良いものに変える。
4.米国および同盟国・パートナー国の国益の明確化
同盟国やパートナー国と共に守るべき米国の国益を明確にする必要がある。それは以下のようなものである。
・(米国と同盟国と合わせた総体としての)経済力、技術力の優越の維持
・基軸通貨としてのドルの地位保全
・軍事力の圧倒的優越の維持と戦略核のバランスの維持
・中国のいかなる領土拡張も防ぐ(特に台湾)。
・同盟国・パートナー国との連携強化及び拡大
・既存のルールに基づく国際協調体制(その基礎となる民主主義的価値)の擁護
・気候変動などグローバルな脅威の解決
5.これら(上記4)を達成するためには、中国自身に目標と行動を変える必要があるが、そのためには具体的なオペレーショナルな戦略が必要であり、そこには以下の7つの要素が必要である。
①経済、軍事、技術力、人材(米国の長期的国力)の再構築
②執行可能な「レッドライン」の設定
③生存に不可欠とまではいえないが中国の行動を変えさせるためにもし侵害された場合には対抗措置を取る必要がある「主たる安全保障上の利益」について合意すること
④重要だが死活的ではない分野であって、米国が中国に対して戦略的競争を全力で行うべき分野の特定
⑤中国との戦略的協力が米国の国益に叶う分野の特定(たとえば気候変動や感染症や核セキュリティなど)
⑥イデオロギー闘争において勝利すること
⑦これらの戦略について十分具体的な形で主要なアジアと欧州の同盟国と合意しておくこと
6.上記5.の要素を達成するための原則
これら7つの要素は、十分な省庁間の調整により統合された形で追及される必要がある。その際には以下の10の原則が重要である。
①米国は自国の戦略的なパワーの4つの根本的な源泉を死守するべきだ。それは、軍事力、ドル基軸通貨、技術力、自由や公正や法の支配といった価値の力である。
②米国自身の経済的構造的弱点の克服
③普遍的な自由の価値と国際協調体制の維持を戦略の基盤とすべし。
④同盟国と統一的に対中行動を取るべく同盟国との戦略調整を十分行うこと。同盟国やパートナー国の政治経済に渡る広いニーズに対応すること。
⑤中国はほとんどの国にとって最大級の貿易相手国である。したがって、軍事面のパワー・バランスだけでなく、政治・経済においても同盟国を支援をする必要がある。市場アクセスや経済支援についても拡大する必要がある。
⑥ロシアとの関係を改善すること。ロシアが米国に友好的になるとかましてや同盟国となることはあり得ないが、これ以上、露中連携に追いやるべきではない。ロシアは米国の脅威ではない。
⑦中国の内政にある分断線に集中すること
⑧「強さを尊敬し弱さを軽蔑する」という中国のリアリスト的戦略文化を忘れないこと。
⑨中国は当面の間、米国との軍事衝突を避けたいと考えていることを理解すること。負けたりするようなことがあれば共産党崩壊の危機だから。
⑩習近平にとっても「結局は経済だ」ということ。習近平が地位を降りることになりうる最大の要因は経済での失敗である。
7.米国自身の国内課題の解決
米国自身が解決しなければならない国内課題は、長期に渡り実施が必要な構造的なものであり、以下のとおり既によく知られているものである。
・5Gなど経済インフラへの投資、
・テクノロジー、エンジニアリング、STEM教育、大学、科学技術研究への投資
・AIなど先端技術イノベーションにおける米国の優位の維持
・米国の人口が、若年層人口が多く増大し、他の先進国や中国が苦しめられている少子高齢化の問題を回避すること。また、世界の優秀な人材が米国に留学に来続けること。
・財政悪化の方向を正すこと。
・社会の分断の改善
・孤立主義ではなく国際協調体制の維持拡大していくことについて米国自身が政治的決意を固くもつこと。
8.以上述べた上で、
・レッドラインの具体的内容の提案(台湾の武力解放、南シナ海、尖閣諸島の奪取を許さないことを明確に)
・安全保障上の主たる懸念分野(中国の核軍縮協議拒否、宇宙、サイバー、米国及び同盟国・パートナー国に対する軍事・経済的圧力、中国国内におけるジェノサイド)
・戦略的競争を宣言するべき分野(QUAD強化、日韓関係の改善、TPPへの再参加、ODAや米国市場を同盟国やパートナー国に提供すること)
・戦略的協力を継続する分野(中国の入った核軍縮枠組み策定、宇宙・サイバーについての二国間条約策定、気候変動、グローバル感染症、北朝鮮の非核化)
・思想(Idea)の競争における勝利
・同盟国の役割の死活的重要性
については、さらに個別に詳しく提案を行っている。
9.長期的には、中国人民が共産党の唱える世紀の題目(中国文明は永遠に強権的な将来にある)に疑問を持つようになる可能性は十分ある。それは、中国人民が選択することである。他方、米国の今後数十年の戦略は、中国共産党指導層に今後の戦略的方向性を変更させることにある。そのためには、米国自身が自信を取り戻すことが必要である。米国民がこれからの世紀においても米国がグローバルなリーダーシップを発揮する能力があることについての信念を取り戻すことが必要であり、その過程で、同盟国や友人が米国に対する信頼を取り戻すことが重要である。(おわり)
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