本年1月に発表された「より長い電報:米国の新対中政策へ」という米国の元外交官・政府関係者が書いた匿名論文が話題だ。その概要は、拙稿『米国の長期的対中戦略「新X論文」の概要』(2021年3月3日、e-論壇「百花斉放」)で触れているので参照してほしい。冷戦時の対ソ戦略の「封じ込め」政策の基礎となったと言われるジョージケナンの長電報、いわゆる「X論文」にちなんで名づけられた対中戦略を論じた非常に長い論文である。著者は、長らく米国の外交・安全保障に携わってきた者なのだろう。日本ではまだ余り紹介され論じられていないが、米国内、中国、インド、シンガポール他世界各国にて様々な同意や反論が寄せられている。そのことだけでも素晴らしい論文だと思う。良い論文には何か言いたくなるものだ。深く納得する何かや反論したくなる独自の主張が含まれているということなのだ。
自分自身読んでみて、賛同するところが多かったが、疑問に思うところもあった。いずれにせよ、この論文の最大の貢献は、中長期的な対中戦略を策定する必要性を各国に認識させたことにあると考える。今、中国はさらに大きく変貌しようとしている。バイデン政権になった米国は、より冷静に米中のパワーバランスの現状を認識した上で、中国に対するポリシーレビューを行っている。おそらくこの新X論文とそれに関する論争は多いにバイデン政権の対中戦略の影響を及ぼすのではないか(既に及ぼしているようにも感じる)。
一応ざっくり読み通したが(80頁もある!)、論点について多層的な記述(つまり、あちこちに何度も出てくる)をしているためまどろっこしい(筆者の中では概念的に整理されている)ところもあるので、階層別の記述を無視して、独断と偏見で新X論文のポイントを挙げておく。忘れている部分もあると思うので、また読み直したらいろいろ出てくるかもしれないがご容赦願いたい。また、同論文に寄せられた主たる反論ととりあえずの自分の感想も書いておく。いずれにせよ、強烈に、日本として中長期的な対中戦略が必要だと痛感する。この点については何とかしていきたいと思っている。
新X論文のエッセンスについて、気になる点に絞っても相当な分量になるので、非常に端的に新X論文の主旨について書いておくと、「強権的拡張主義な中国の問題の本質は中国共産党ではなく習近平。したがって、共産党政権打倒ではなく、習近平を降板又は習近平の政策をより協調的に変更させることを米国の戦略目標とすべし。(つづく)