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2021-03-15 00:00
バイデンQUAD外交と日本
鍋嶋 敬三
評論家
バイデン米政権のインド太平洋外交が本格的に滑り出した。政権発足後50余日だが、3月に入って①国家安全保障戦略の暫定指針発表(3日)、②初の日米豪印4ヶ国(QUAD)首脳テレビ会合の主宰(12日)、③香港問題で主要7ヶ国(G7)外相共同声明発表(13日)と立て続きである。「指針」で「中国は、安定した開かれた国際システムに対して継続して挑戦する経済、外交、軍事、技術的な力を統合する能力のある唯一の競争者」と規定した。これを受けてブリンケン国務長官は記者会見(3日)で「21世紀最大の地政学的試練である中国との関係の管理」が重要な外交課題であることを強調した。対中国強硬策で経済・外交の制裁を連発したトランプ前共和党政権以来の「中国の脅威」をバイデン民主党政権も強く受け止めており、21世紀前半の米国の安全保障にとって「中国」は真っ正面から取り組まなければならない課題だ。
「指針」では、情勢認識として「現在は転換点にある」と歴史の曲がり角にあり、米国の世界覇権が揺らいできたことを認めたのである。これに対処するための戦略は「同盟、友好国関係の再活性化」と多国間協調である。北大西洋条約機構(NATO)、オーストラリア、日本、韓国の同盟国は「最重要の戦略資産」であり、これに対する関与、投資、近代化とともに同盟国側の責任分担の必要にも言及している。戦略的に最重点地域は、中国を囲むインド太平洋およびロシアの脅威に直面する欧州である。中国に対しては「力の立場からの関与」を明確に示した。特に「経済、安全保障上の重要なパートナーである台湾を支持」、香港、新疆、チベットを含む民主主義、人権を守るため「有志国と共通の取り組みを行う」と明記した。QUADはその具体的な表れである。
要注意は「戦略的競争と言っても、米国の利益になる場合には中国との協調も排除しない」としていることだ。「現実的、結果重視の対中外交」を標榜しており、気候変動、世界の保健安全保障、核不拡散など米国の運命がかかる問題では「中国政府の協力を歓迎」もうたった。その場合には、同盟国や友好国諸国を結集して交渉力を示すとしており、対中交渉で同盟国を巻き込む意図がはっきり見える。QUAD首脳会合後の共同声明では年一度の外相会議の定例化、21年末までに首脳による対面会合の開催、専門家による定期会議の実施などを公表、「制度化」へ踏み出した。具体策として新型コロナのワクチン、気候変動、将来の国際標準化を想定した重要・新興技術に関する専門家作業部会を発足させる。4首脳は会合後、異例にも連名でワシントン・ポスト紙に寄稿、「自由で開かれたインド太平洋」の実現への決意を世界にアピールした。
首脳会合を総括したサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は①QUADは「インド太平洋」という枠組の核心、②4首脳は中国への幻想は一切ないことが明白、③首脳会合が「集中的な外交展開のキックオフ(開始)」と語った。3月15日から17日までビリンケン国務長官、オースティン国防長官が日本および韓国でそれぞれ2+2会合、国防長官はその後インドへ、サリバン補佐官と国務長官は18日アラスカで中国の外交トップとの会議へ続く。インド太平洋地域から他の首脳(複数)の訪米も近く発表される。菅義偉首相は4月前半に訪米し、バイデン大統領が初めて行う対面での外国首脳との会談になる。菅首相はQUADサミットを前に1月28日にバイデン氏と、2月25日にモリソン豪首相、3月9日にモディ印首相とそれぞれ電話会談、中国による東、南シナ海での一方的な現状変更、海警法についての深刻な懸念を表明し、香港問題や新疆ウイグル自治区の人権問題を取り上げてきた。安倍晋三前首相が2016年に初めて提唱した「インド太平洋構想」が首脳レベルの会合の定期化にまで発展してきたのはこのような日本の外交努力の成果として率直に評価すべきである。作業部会、外相級、首脳級の枠組みによる成果でQUADの存在意義も一層高まり、日本の外交力が一段と強まることを期待したい。
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