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2021-03-21 00:00
中国への優越感を超えて
村上 直樹
国際公務員
松川るい議員の評論
「『新X論文』:長期的な対中戦略の必要性」
(2021年3月9日、e-論壇「百花斉放」)を拝見したが、長期的な戦略が必要と主張しつつ、長期的な視座が決定的に欠けている論考と言わざるを得ない。中国の経済規模や領土を考えればこの150年の低迷を前提とした国際秩序(特に東アジアの安全保障状況)を前提とすることに持続可能性がないことは明らかだ。
よく地球儀を見て欲しい。現在米国は中国海岸線沿いにほぼ定期的に軍用機を飛ばして偵察することが出来ている。その背後には台湾・沖縄・グアム・そして日本本土に80以上の米国の軍事施設がある。同じことを中国は米国本土はおろかハワイ近郊でできるだろうか。答えは否である。2030年までに実質のみならず名目ベースでも米国を抜いて世界最大の経済大国となる中国に対してこのような状況がフェアなのか、持続可能なのかという議論をすることこそが本当の長期的な視座である。残念ながら日本ではそのような議論は皆無であり、FOIP等においても声高に叫ばれている現状の一方的変更という表現が日本外交の戦略的欠如を露呈している。中長期的な歴史やエビデンスに基づく予測を踏まえ、現状維持ではなく現状からの戦略的退却(太平洋戦争中の言葉でいう「転進」)が求められている。本来、日本は同盟国に対して持続可能ではない強硬策ではなく、戦略的退却を促し、どの程度中国に譲歩するのかという議論を主導すべきではないか。そこには当然、香港は勿論、台湾からの戦略的退却も含まれる可能性がある。数年前に米国で話題となったForeign Affairsの論考にもあったように米国の外交専門家は重層的であり、「中長期的には台湾は米国の死活的利益にはなり得ない」という分析は一定の支持を得ている。
また、好き嫌いといった印象・感情論を排し、日本が中国の勢力圏に入る可能性も分析の視座に含めるのが知的に誠実な態度である。その際にLiberal Democratic Orderや独裁主義といったスローガンを丁寧に定義し、日本として具体的にどのような不利益が生ずるのか(中国はそれを日本に強いることでどのような具体的な利益があるのか)という点を分析すべきではないだろうか。例えば、中国にとって戦略的ジュニアパートナーとなっているロシア、中国との外交関係を経済面のメリットという観点にコミットして対応しているシンガポール、そして隣国・韓国の対中外交が一定程度参考になるかもしれない。また、「中国のグローバルな地位を側面支援することで、中国のリソースを分散させ、東アジア域内では日本が一定の発言権を持つ」という構図も戦略としてはあり得る。換言すれば中国の影響下に入ることと日本の国益が矛盾しない可能性も十分あり得る訳であり、中長期的な戦略とは正しくこのようなオプションを含めて比較検討することである。
経路依存性や無謬性の影響を受ける外交当局にそのような思考は難しいとしても、アカデミアな領域(研究者)からもそのような重層的や分析やアイデアが出てこないのが日本の大きな問題と考える。繰り返しとなるが、その点米国のアカデミアはかなり重層的である。他方で、日本のマスコミが取り上げる米国発の中国関連の論考にかなり偏りがある、或いは日本を自国のリソースとして保持したい米国側のポジショントークを見抜けていない例が多い印象である。
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