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2021-03-25 00:00
(連載1)民主主義を支える力 ~琵琶湖淀川水系河川治水問題を例にとって~
畑 武志
元大学教員
独裁的国家が力を増している現在、民衆が自らの意志で自由に生きることができる権利を意識するという民主主義の基礎になる市民力が問われており、その力が伸びていかねば、権威主義が何処へでも飛び火してくる危険がある。そのためにもさまざまな分野における、現状の確認と改善が必要だろう。
河川防災の分野においても、1997年の河川法の改正によって、環境を配慮した河川づくりのため、国土交通省の各地方整備局管内、また各道府県管内主要河川に流域委員会が設置された。法改正で住民の意見を取り入れながら河川整備の計画を考えることになり、ユニークな川づくり会議となっていった。2001年に始まった淀川水系流域委員会は多くの流域住民の関心を集めながら、先進的な議論の展開があった。400回を超える会議や現地調査等の積み重ねを経て、2009年にこれからの整備の在り方について河川整備計画が策定された。その結果、環境への影響が大きい大戸川(だいどがわ)ダムなどのダム計画は凍結されることになり、国土交通省の当初の構想とは異なる結果となった。流域委員会の活動は、河川環境を守る住民も加わった幅広い議論の場になり、国交省(国)のダム政策を正す場ともなり、個々人が一身をかけた真剣な議論が展開され、多くの関係者のその後の生き方にさえ影響を与えるものになった。一つの法律の改正によって、ここまで人々に本来あるべき仕事の形を意識させ、民主主義の根幹を考えさせる機会を与えたことは特筆される。
その後、流域委員会の形も変わり、開催回数も限定され、十分な議論を積み重ねることはできなくなっていった。本年3月の淀川水系流域委員会では先の整備計画の変更案が提案されたが、大戸川ダムの復活案が提示された。温暖化による降雨状況の変化によって一部流域県からの要望があったことから旧案が復活してきた。大戸川の洪水防止効果の判定に問題があることは旧流域委員会で指摘されてきたところであり、元流域委員会委員の嘉田由紀子参議院議員らによって緊急フォーラム(「今こそ流域治水を!~ふりかえる淀川水系流域委員会の提言 ~」21年3月21日)が開かれ再度問題点が議論された。そこでは元建設省ダム計画担当課長補佐で、その後この流域委員会の委員長も務められた宮本博司氏から、在任中年間70~80基ものダム計画を立案され、ダム建設が目的化したかのような状況について反省を込めて語られたが、整備計画変更案では旧ダム案が復活してきたのである。
さて、淀川水系は琵琶湖を抱えているが、3.3㎝の水深を湖水面積670km2に乗ずるとその水量は上述の大戸川ダムの洪水調節容量2,200万m3にほぼ等しい水量になる。ほとんどその変化に気付かない程度の3.3㎝の水位調節で大戸川ダムと同じだけの洪水調節が下流に対して可能になる。琵琶湖の主要な出口は瀬田川洗堰であり、今もこの堰で流出量を制御して、ダムと同様の洪水調節を行っている。しかし、この操作を巡っては長年にわたって上下流の対立があり、琵琶湖を有する滋賀県を中心に上流は堰の閉鎖で湛水被害が生じ、下流府県は堰を開くことで洪水被害を受けるなど上下流府県の利害が相反して、洗堰の操作方向が決まらなかった。ようやく1992年3月に合意ができ、洗堰操作規則が定められた。関係府県はじめ関係者の並々ならぬ努力の結果、洪水期には琵琶湖基準水位より20~30㎝下げて洪水に備えることができるようになった。それだけで、大戸川ダム9個(基)相当分の洪水調節容量が確保されたにことになった。常時満水位まで貯めるとさらに30㎝(同ダム9個相当分)、計画高水位まで貯めるとさらに110㎝(同ダム33個相当分)の調節容量を確保できることになった。(つづく)
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