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2021-04-10 00:00
日本を徘徊する「専門家」という妖怪
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
妖怪が日本を徘徊している。「専門家」という妖怪である。といっても新型コロナの話ではない。
4月2日金曜の防衛大臣記者会見
の様子を見て、そう思った。どこかの名無しの記者が、名無しの「専門家」を引用して次のように質問したそうである。「先日の統幕長による他国軍と共同のミャンマーに対する非難声明についてお伺いします。専門家の方からですね、自衛隊法の61条の政治的行為に当たるのではないかという指摘も出ています。」これに対して岸大臣が「本共同声明は、隊員個人としての行為ではなくて、関係部局と調整した上で、私の了解を得て発出されたものでありまして、統幕長名義ではありましたけれども、防衛省組織として意見を発出したものであります。従いまして、隊員個人の行う「政治的行為の制限」について定めたこの隊法61条には該当しないとこういうことであります。」と丁寧に答えた。
これは先日、私が
「日本を裏切ったミャンマー国軍司令官」
(2021年3月30日、e-論壇「百花斉放」)という題名で書いた文章で扱った件だ。「民間人に対する軍事力の行使を非難する。およそプロフェッショナルな軍隊は、行動の国際基準に従うべきであり、自らの国民を害するのではなく保護する責任を有する。」という内容の12カ国共同声明に、統合幕僚長山崎幸二陸将が参加した件だ。そもそも私がこの文章を書いたのは、どうせこの種の質の悪い謎の匿名の名無しの「専門家」みたいなのが現れるだろうと思い、先回りしたかったからであった。案の定と言ってもいい。岸大臣が答えたように、シビリアン・コントロールがとられていることや政府としての協議体制がとられたことは、防衛省の公式ホームページに日本語の声明説明文が掲載されたことや、外務省が同日に内容を補強する声明を出したことで明らかだった。私が紹介した通りである。
しかしそういう手続き論を離れて、実質内容を見るならば、2日金曜のやりとりに、日本の病理が如実に示されているように感じる。もし「自衛隊は民間人を撃つのが国際基準に合致していると思うか」と質問されたとき、自衛隊員が「それはわからない!絶対に答えない!」と言うのであれば、日本の「専門家」は、拍手喝采して喜ぶつもりなのだろうか。それが日本が誇る「専門家」という存在なのか。そんなものが「専門家」なら、そんな「専門家」などいらない。百害あって一利なしである。新型コロナでも自称・他称・通称・匿名の無数の「専門家」が徘徊した。なぜその人たちが「専門家」かと言うと、「俺は専門家だ!だから黙って俺の言うことを聞け!」と主張する人たちだから、「専門家」と呼ばれているだけである。
そこに日頃からイデオロギー闘争に明け暮れているジャーナリストたちが、相乗りする。「おい、お前ら黙れ!『専門家』がこう言っているんだ!」と主張したいがゆえに、都合のいい「専門家」を見つけるか、見つけられなければ都合よく適当に「専門家」を作りだし、自己の主張の代弁をさせる。だから荒唐無稽な主張をするだけで責任をとることもしない「専門家」どころか、匿名の即席「専門家」まで大量生産されて、日本を徘徊するようになってしまった。今の日本で「専門家」ほどあてにならないものはない。ひどい世の中になってしまった。
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