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2021-04-19 00:00
対中同盟戦略の転換点
鍋嶋 敬三
評論家
菅義偉首相とジョセフ・バイデン米大統領による首脳会談(4月16日、ワシントン)は「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」をうたった日米共同声明を発表した。ルールに基づく国際秩序への挑戦に対処する安全保障政策だけでなく経済、科学技術の競争力、新型コロナウイルス対策、気候変動、クリーン・エネルギーなど世界が直面するグローバルな課題の対処への関与で協力を約した。同盟関係重視、多国間協調路線のバイデン政権と日本が歩調を合わせ、日米同盟が揺るぎないことを世界に示すことができた。菅首相は会談後の記者会見で「共同声明は今後の日米同盟の羅針盤」(通訳はthe guiding post for our alliance と訳した)と語ったが、世界的な課題について包括的に共同歩調を取る路線を敷いたのである。
日米双方ともバイデン政権発足直後から着々と同盟強化策を組み立ててきた。「中国は開かれた国際システムに対して挑戦する唯一の競争者」と規定するバイデン政権は3月、国家安全保障戦略の暫定指針を発表したのを皮切りに日米印豪4ヶ国(QUAD)首脳テレビ会合、日米安全保障協議委員会(2+2)の東京開催で態勢を固めた。バイデン氏は会見で「日米同盟と共通の安全保障への鉄壁の支持」を言明して首脳会談の成果を高く評価した。中国による東シナ海、南シナ海での現状変更への反対はもとより、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」したのは1969年11月21日の佐藤・ニクソン共同声明以来52年ぶりのことだ。1972年の沖縄返還に合意したこの首脳会談の共同声明では佐藤栄作首相が「韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要」「台湾地域における平和と安全の維持も極めて重要な要素であると述べた」と明記した。
それは日中国交正常化前のことだったが、半世紀ぶりに「台湾地域」の記述が日米の公式文書に登場したことは、軍事大国へ邁進する習近平指導部への危機感を日米が共有したことを示す。日米共同声明には沖縄県の尖閣諸島に対する日米安全保障条約第5条の適用を米国が再確認したが、中国による尖閣諸島への領海侵犯と至近距離にある台湾の防空識別圏への侵入は一体のものと考えるべきである。いずれも第一列島線から米軍を排除して東シナ海から南シナ海に至る海・空域で中国軍の優勢を確保し、最終的には尖閣奪取、台湾併合につなげる狙いである。「台湾条項」の再登場はバイデン政権の「台湾有事」の危機感を反映、香港、新疆ウイグル自治区での人権抑圧に「深刻な懸念」を共有した。バイデン大統領は「民主主義と専制主義の闘い」として対中戦略を進めている。欧州よりも真っ先に首脳会談の相手として日本を選んだのは、地政学的に対中最前線にある日本を「最も緊密な同盟国」として高く評価したからに他ならない。
中国とは経済的な結び付きが米国より強い日本は対中関係でこれからも難しい対応を迫られる。安全保障に絡めてレアアース輸出制限のような経済制裁をかけたり、邦人を理由も開示せずに拘束したりするのは中国外交の常套手段だ。しかし、日米同盟を外交の基軸とする日本が米国の核を含む拡大抑止に依存しながら、日本の主権を脅かし続ける中国にもいい顔を向ける「八方美人」外交はあり得ない。日本は共同声明で「同盟および地域の安全保障を一層強化するために」防衛力強化の決意を明確にうたった。菅首相は記者会見でも「日米同盟の抑止力、対処力を強化する必要がある」と表明した。日米同盟の強化路線を推進し、そのために日本の防衛力を強靱にすることこそ、転換期を迎えた対中関係の基礎になる。安倍晋三前政権の下で日本の安全保障政策は安保法制で限定的な集団的自衛権行使の道を開いたが、2013年策定の国家安全保障戦略の再構築を急ぐべきだ。米国との同盟関係があるとしても、侵略から自分の国を守るのはまず日本人自身であることを肝に銘じて置くのは言うまでもない。
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