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2021-04-23 00:00
(連載2)『経済学者たちの日米開戦』読後感と日本学術会議の任命拒否問題
葛飾 西山
元教員・フリーライター
軍が秋丸機関に何を求めたのか。戦端を開けるわずかな可能性の数理的エビデンスがほしかったのか。そのあたりはこれからの解明を待つばかりであるが、政府に批判的立場にある左翼系の学者を引き入れた研究機関について、周囲からの批判もあったであろうが、陸軍の潤沢な予算で運営したのは、やはり国家がのるか反るかの局面でとにかく客観的な数理的分析を必要としたからであろう。結局のところ、先制攻撃を仕掛けて、アメリカの戦意をくじき、1~2年のうちに有利な状況で停戦講和に持ち込むという、論理的にはあり得ても、現実的には期待すべくもない可能性に一縷の望みをかけて「清水の舞台から飛び降りる覚悟」でアメリカ・イギリスと戦争をすることにはなった。
しかしそれはあくまでも政治判断であり、陸軍においても決断の前段階の客観的分析には政府・軍に対する批判的な立場の人材であっても、その能力は国家にとって必要と考えていたからこそ、秋丸機関に経済分析をさせたのであろうと推察される。
本年4月22日、日本学術会議は菅首相が任命を拒否した会員6名の即時任命を求める声明を採択した。菅首相は日本学術会議が推薦した会員のうち6名の任命を拒否し、現在も拒否継続中である。日本学術会議もこれに折れず平行線のままである。日本学術会議を特殊法人にする組織改革案も議論されている。そもそも日本の国家としての方向性を客観的立場から分析するのに政治的スタンスは無関係であることは言を俟たない。時には政策を真っ向から否定する内容であっても、必要であれば提言はしなければならない(その提言を容れるかどうかはあくまで政治判断である)。国費で賄う機関が政府に逆らうとは何事ぞ、という意見もある。しかし日本学術会議は政府の代弁者ではない。政府に意見することを期待されている機関であるからこそ、国費を投じる以上、耳の痛い意見を上げてもらわなければならないのである。逆に言えば、政府にとって耳の痛い意見をこそ上げさせるために国費を投じなければならないのである。日本学術会議には権威・権力に阿諛追従する学者はいらないのである。半世紀以上前の対米開戦も已む無しだった帝国陸軍ですらそのような姿勢だったことを考えれば、現代においては何をか言わんやである。
本稿での秋丸機関についての記述はすべて牧野氏の著書に寄っているが、この本の帯に推薦文を書いているのは、奇しくも任命拒否の渦中にある加藤陽子氏である。加藤陽子氏は誰もが認める第1線の日本近現代史の研究者である。こうした研究者の言に耳を傾ける機会を政府みずからがみすみす放棄するのは、日本という国家にとっての大きな損失である。速やかな任命を望むばかりである。日本国の発展の継続を望めばこそ。(おわり)
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