自衛隊が医官等を派遣した上で、自らが運営するコロナワクチン大規模接種センターに関する批判記事(①記事)が波紋を呼んでいます。これに対して自衛隊を擁護する記事(②記事)も出ており、こちらもなるほど一理あります。筆者は、②記事の主張を考慮しても、今回のような大規模集団接種に自衛隊を動員したことには問題があると考えています。
なぜなら自衛隊の災害派遣(今回の自衛隊の動員は正確には自衛隊法に基づく災害派遣に該当しませんが)は、以下の3要件を判断基準としているからです(「災害派遣の参考」(陸幕運支第227号(19.6.22)別冊)15頁)。 ① 公共性:公共の秩序を維持するため、人命又は財産を社会的に保護しなければならない必要性があること。 ② 緊急性:差し迫った必要性があること。 ③ 非代替性:自衛隊の部隊が派遣される以外に他の適切な手段がないこと。
今回の派遣は②については疑問がありますし(今すぐ自衛隊を投入しないと人命が危機に晒されるという状況ではありません)、看護師の派遣や会場の運営を民間に委ねた点で③の要件を満たしていません。また災害派遣に自衛隊が必要とされるのは、他からの支援・協力を必要としない、その自己完結性のゆえからで、派遣先で民間の支援を必要とするのであれば本末転倒と言わざるを得ません。
求人情報サイトを検索してみると、コロナワクチン接種の看護師の求人が多数あり、医療機関同士で人材の取り合いになっていることがうかがわれます。今回自衛隊もこの人材の取り合いに結果的に参入したことになります。また政府がこの緊急事態下に限られた人材の調達を民間の自由競争に委ねていることにも疑問を感じます(人材が全国に適正に配置できるよう政府が介入、統制すべきではないでしょうか)。(つづく)