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2021-05-27 00:00
デジタル社会政策への関心を強く持て
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「『政府による監督を自ら進んで受け入れます』――。中国でプラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業が、中国政府に対して次々に<誓約書>を提出している。背景には、ネット通販大手アリババ集団への処罰を機に、習近平政権が業界全体への圧力を強めていることがある」(2021/04/16朝日新聞)。独占禁止という経済民主主義が作動して、過度な市場支配をするプラットフォーマーの行き過ぎた経営活動を戒めた、ということであれば「さもありなん」と納得できる。現に、アメリカでもグーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンなど「GAFA」と略称される4社の寡占状況は金額レベルで5兆ドルとも言われ、この値は日本のGDP(国内総生産)に匹敵する程の巨額であり、これら企業群の支配力が他の企業等の活動や民生を支配するまでに及んでくるに至って最早無視はできない状況になっているとして、昨夏から米議会では公聴会を開いてGAFAなど4社の反トラスト法(独占禁止法)の適用を議論するに及んでいる。
しかし、上の記事の真意はそんな経済民主主義にあるのではない。中国IT超大手のアリババ社のカリスマ的創業者である馬雲(ジャック・マー)氏と習近平政権との間で先に抜きがたい確執があったためとみられている。率直な物言いで知られる馬氏が昨年10月、習近平政権の金融政策を厳しく批判したのが、習近平国家主席の逆鱗に触れたと言われている。つまり、上記記事の本質は経済民主主義などではなくて、経済寡占化を通じて政治権力の対抗者ともなりかねないIT企業への政治的抑圧または弾圧なのである。これ自体が悪しき歴史への挑戦であるが、これによってデジタル社会の末に見えてくる暗黒社会の可能性もまた視界に入って来る。つまり、権力者が寡占IT企業となり合うことで大衆支配が可能になる。今も現存する寡占資本=大企業と政治のなれ合いの貫徹への途である。
ひるがえって今、この国でも遅ればせながら「情報化社会」に活を入れようと菅政権はデジタル社会を標榜して先を急いでいる。その先に見えてくる二つのイメージ、独占寡占資本社会と独裁政治社会のどっちに安定するのか、緒に就いたばかりの国会審議を見る限り、その行先は「鬼が出るか?蛇が出るか?」茫洋として見えては来ないが、国民は大いにこれに関心を持ち続けなければならない。
デジタル社会の未来は、人々自らの責任で適切な情報を摂取することを通じて時空間の縛りを排除して、精神の解放を得、豊かな生活が可能になるという「噺(はなし)」であった。しかし今実現したITユートピア社会はなお山の彼方にあって茫洋として不明である。菅政権のデジタル庁がハンコから入り、目指す先が「国民背番号」としているのを見ればユートピアはそもそも存在していないとしか思えないのだが、この先どんな道に連れ込まれるのか、国民には己の位置情報を道々確認し続ける緊張が要求される。
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