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2021-06-16 00:00
(連載2)第336回国際政経懇話会に参加して
河村 洋
外交評論家
この疑問点へのヒントとなったのが東京大学の佐橋亮准教授による「中国の金融市場が金山に見えるウォール街の話。第一段階の最大の受益者でもある。ただウォール街のロビー力はこの瞬間では落ちているし、政権にムニューシンっぽいのはいない。 けどその辺りをすっ飛ばして理解している人が多い」というツイート(5月29日付)でした。ウォール街同様、シティの権益を代表して「英中黄金時代」を創り上げようとしたジョージ・オズボーン財務相もキャメロン政権とともに退陣しました。こうして見ると、中国はロシアがブレグジットやトランプ現象で仕掛けた工作とは違い、財界を通じて目立たずに日米欧への政治的介入を進めているのではないかとも思えてきます。ともかく「日本株式会社」そのものが知らぬ間に中国の「トロイの馬」にされてしまえば、それは日本国民にとってはサイバー・ハッキング技術以上の脅威とも成り得るでしょう。
今回のハイブリッド戦争というテーマからより広義に、中露両国の海外への政治的影響力拡大方法を比較すると各々の特色があります。新アメリカ安全保障センター(CNAS)のデービッド・シャルマン氏とブルッキングス研究所のパトリック・カーク氏の連名による3月12日付けに「ヒル」誌への寄稿によると、ロシアは対象国の政治的分断につけ込む一方で中国は専制国家の体制の支援にダーク・マネーを注ぎ込んでいるということです。一帯一路に関しては、このような視点から見てゆくことも必要と思われます。
いずれにせよ廣瀬教授が言われた通りにハイブリッド戦争は戦果がわかりにくいので、通常戦争のように兵器の性能に基づく戦闘能力の強弱の比較は難しいと思われます。またハイブリッド戦争の非サイバーおよび非技術的側面には、各国の文化的あるいは歴史的背景も関わってきます。例えばロシアが白人キリスト教ナショナリズムを喚起して欧米諸国の国内分断を煽るようなやり方は、中国には真似できません。中国には中国が得意な手段をとることになるでしょう。
以上、先の国際政経懇話会と参加者からの質問より、私なりの考察を述べました。これまでにe-論壇に於いてロシアと欧米極右の関係、そしてNIC報告書について幾度も言及してきましたが、拙稿では現象の追いかけになっていたかとも思われます。これからハイブリッド戦争について基礎理論から考えてゆくことは、ロシアと中国のみならず、イラン、北朝鮮、イスラム過激派など様々な敵対勢力による政治工作の理解にも応用できるでしょう。(おわり)
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