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2007-09-19 00:00
資金援助の恩恵受ける米国の大学
鍋嶋敬三
評論家
米国で高等教育立て直しのための動きがめまぐるしい。資金難による大学の質の低下、低所得のために進学の機会が失われる若者のいることが米国全体の国際競争力の低下につながるという危機感が強まったためだ。米議会が大学生への資金援助を大幅に増額し、209億ドル(2兆4000億円)を支出する法案を可決した。過去60数年間で最大規模の教育補助が動き出し、全米で550万人の学生が恩恵を受けると見積もられている。
この25年間の学費の値上がりは著しい。家庭所得の伸び1.7倍に対して大学教育の費用は3.75倍に跳ね上がった。所得の低い階層ほど大学に進む機会に恵まれなくなってきた。奨学金返済も卒業後の収入に応じて加減される。卒業後に看護師、消防士など公的部門で10年間働けば返済免除の規定もある。所得の低い少数民族の学生には朗報だろう。
カリフォルニア大学バークレー校がヒューレット財団から1億1300万ドル(130億円)の寄付を受けた。同大学は州内に9大学を抱えるマンモス機構。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、1億ドル以上の寄付を受けたのはロサンゼルス校(UCLA)からデービス校まで5校ある。バークレー校は100の寄付講座を新たに作り、一流教授陣の有力私立大学への流出を防ぐのに資金を使うという。米国の大学は歴史の古いハーバードなど東部のアイビー・リーグや同州のスタンフォードのような有力私立大学がノーベル賞受賞者など世界的な学者をそろえる。大学院学生も世界中からトップクラスを集め、それが大学の評価をさらに押し上げる。そのためにハーバードは300億ドル、スタンフォードでも150億ドルという巨額の基金を保有している。
一方、税金で運用されている州立大学は州民に高等教育の機会を与えるために設立された。バークレー校の学部学生の56%は非白人、34%が低所得層出身、21%は両親が大学教育を受けていない。同校は幅広い学生層に質の高い教育の提供を使命に掲げている。しかし、州政府の歳出削減のあおりを受けて大学予算が減らされ、教授陣の質を維持するのが大学当局の最大の課題という現実がある。同等の私立に比べ20%も給与水準が低いバークレー校では200人以上の教授に引き抜きの手が伸びたといわれる。
日本の国立大学は独立行政法人化で文部科学省からの経常費の恒常的削減を余儀なくされ、小規模の地方大学は存廃の危機に立たされている。基金の源泉になる卒業生や企業からの寄付は米国と比べようもないほど少ない。一流大学に進学できるのは富裕層に偏る傾向が見え、低所得層は奨学金がない限り進学の道が閉ざされかねない現状だ。米国の大学とは歴史的、社会的背景が違うとはいえ、高等教育を受ける機会の均等、世界的な研究水準の確保の観点からも米国に学ぶことはまだ多い。
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