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2021-08-17 00:00
(連載1)中国の「核恫喝」に対する日本の三つの選択肢
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
最近、中国の地方政府共産党委員会が、台湾有事の場合に日本が台湾を軍事的に支援した場合は、日本が無条件降伏をするまで、日本に対して核攻撃を行うよう呼び掛ける動画を投稿した。さらに、動画では、核攻撃を行なうことによって、尖閣諸島を日本から取り戻し、沖縄を日本の支配から解放できるとしている。この動画は中国全土で拡散し支持する意見が圧倒的に多いようだ。(7月15日付け「NEWSWEEK日本版」参照)。地方レベルとはいえ、このような中国による日本に対する露骨な「核恫喝」は初めてであるが、その背景には、最近の岸防衛相や中山防衛副大臣の台湾重視発言や、麻生副首相の台湾有事は日本の存立危機事態との発言があるとみられている。今回の報道を種として、対中核戦略について考えてみたい。
今回、中国の地方政府共産党委員会から日本に対してこのような「核恫喝」がされたのは、日本には「核兵器」がなく、日本の「核抑止力」が極めて脆弱だからである。日本は、これまで、「国是」としての「非核三原則」である「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」を誠実に順守し、ひたすら、核安全保障を日米安保条約に基づく「拡大核抑止」(「核の傘」)のみに全面的に依存してきた。しかし、「核の傘」による核抑止は決して万全ではない。米国が自国民を犠牲にしてまで中国との全面核戦争の恐れがある核による反撃をする確実な保証がないからである。このことを中国は十分に認識したうえで、日本に対して上記の「核恫喝」をしたと考えられるのである。
しかし、このような中国による台湾有事に関する「核恫喝」は、何も日本に対してだけではない。中国は核大国の米国に対しても「核恫喝」をしている。即ち、「米国政府には他の核保有国と本気で核戦争をするつもりがないからである。米国政府内には、東アジア地域の軍事紛争で核戦争のリスクをとるべきと考える者が皆無である。」(伊藤貫著「中国の核戦力に日本は屈服する」228頁~239頁2011年小学館参照)と言われていた。
しかし、十数年前の状況と現在は異なる。共和党トランプ政権では米中関係が鋭く対立し「米中新冷戦」の時代に入った。現在の民主党バイデン政権でも、南シナ海及び東シナ海における力による現状変更など、海洋進出を企て、世界の覇権を狙い、軍事力を年々増強拡大する中国を警戒し厳しく対峙している。バイデン政権の台湾有事に対する懸念も強い。したがって、中国による台湾武力解放を座視し黙認するとは考えにくい。台湾武力解放が国際法違反の「侵略行為」であると米国や国際社会が認めた場合には米国はなおさら中国による台湾武力解放を座視しないであろう。ましてや米国自身に対する中国の「核恫喝」に屈するはずがない。対照的に中国の日本に対する「核恫喝」は、前記の通り日本が「非核保有国」であり、「核抑止力」が極めて脆弱だからである。したがって、中国による「核恫喝」を跳ねのけるためには、日本の「核抑止力」を強化する必要がある。そのための日本の選択肢は三つある。(つづく)
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