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2021-08-19 00:00
中国の対ウィグル人権侵害の実態を把握せよ
松井 啓
初代駐カザフスタン大使
欧米では中国の新疆ウィグル自治区で強制労働、何万人も再教育施設に収容、強制避妊手術などの人権侵害の情報を理由に北京オリンピックをボイコットすべしとの意見もあるが、オリンピックを国際政治の場としてはならない。かつて欧米諸国がアフリカ、アジア、南米、大洋州地域の先住民に対して、強制労働、家族離散等の非人権・人道的政策を行い、日本も朝鮮半島、台湾に対して日本語の普及を行ったが、中国が現在行っている新疆自治区での同化政策は時代錯誤であることを早急に自覚させるべきである。
そのためには間歇的断片的な情報ではなく、中立的国際機関に新疆自治区における人権侵害の実態調査を委ねて、その客観的事実に基づいた対策を講ずるべきである。中国が新疆自治区の同化政策を長期的戦略に基づき着々と進めてきたことの参考までに、私が1995年8月に第4回ウルムチ国際見本市(7千人の入場者を見込んでいた)見学、及び2008年9月に新疆医科大学での会議参加のためにウルムチを訪問した際に入手したこの地区の人口動態の記録を以下に取りまとめた。この地政学的に重要な地域は中国とロシア(ソ連)のせめぎ合の末1955年に至り中国の支配下に確定した。この自治区の人口の変化は次の通り。
1948年 4百万人:ウィグル人3百万人(75%)、漢人24万人, カザフ人40万人その他の少数民族。
1990年 15百万人:ウィグル人7百万人(47.5%),漢人5.7百万人(37.6%), カザフ人1百万人(6%)。
この3民族でこの地区内の47民族グループの90%を占めていた。約40年間に人口が約3.7倍となり、その中で漢人が24倍増加したことは注目に値する。2008年8月の資料では
総人口1925万人:うちウィグル人838.04万人(43.02%)、漢人838.56人(43.35%)、カザフ人124.5万人(6.46%)
となり、漢人はウィグル人に肉薄した。他方、首都ウルムチの人口は1948年8~10万人と推計され、1986年には120万人に増大した(うち漢人75%、ウィグル人12%、フイ人(回族)8%、カザフ人 3%)。
自治区の経済開発には人民解放軍が一種の屯田兵のような役割を果たし、鉄道や高速道路のような経済インフラの建設に従事し漢人の人口増加を促した。北京はこの地区に強力な財政支援を行うとともに党組織のトップは漢人が握って、政策の実施はウィグル人などによる現地行政組織に任せるという伝統的方法を用いているようである。2008年に訪問した新疆医科大学も学長はウィグル人だがそれを漢人の副学長と党書記が補佐していた。
すべての掲示板や標識は漢語とウィグル語を併記するとの法律があるにもかかわらず最近は漢語のみが多くなったと案内のウィグル人は嘆いていた。北京とウルムチの時差は2時間だが現地の漢人は日常的に北京時間を使っており、ホテルのベッドサイドの時計も北京時間にセットされていた。漢人にばかりうまい汁(利権、金もうけ、要職)を吸われるとのウィグル人の不満が高まっていることが感じられた。独力で大富豪となりながら2005年にアメリカに亡命したラビア・カーディル女史(のちに東トルキスタン独立運動のリーダーとなった)が所有していた6階建てのデパートは閉鎖されていた。
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