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2021-08-23 00:00
アフガニスタン陥落の「教訓」
鍋嶋 敬三
評論家
あっけないアフガニスタン政府の崩壊だった。米軍は2021年8月末を兵力撤退の期限としていたが、米国の予想を上回るスピードでタリバンが侵攻、ガニ大統領は8月15日、首都カブールを脱出、国外に逃れ即座にタリバンが「入城」した。アフガン戦争は20年前の2001年9月11日の米国同時テロをきっかけに、テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディンをイスラム原理主義組織タリバンがかくまっているとして、米国がタリバン統治のアフガンに侵攻した。タリバン政権は崩壊したが、20年後によみがえったのである。米国は2兆ドルの戦費を費やし、米軍の犠牲者は2400人に上る。北大西洋条約機構(NATO)も参戦した。タリバンの「復活」はこれから世界にどのような影響をもたらすのか?中東のさらなる不安定化、米国の影響力の一層の低下、経済を含めた世界情勢の混迷が予想される中、中国が外交の主導権を握ろうと活発に動く。「失われた20年」は何だったのか。
バイデン米大統領は8月16日の演説で、タリバンの攻勢の早さについて見通しが甘かったことを認めた。米国のアフガン政策の大失敗だ。大統領は「アフガニスタン軍が自分たちのために戦わない戦争で、米兵が命を落とすべきではない」と率直に語った。アフガニスタン治安維持部隊は30万人規模だというが、カブール防衛ではタリバンとの戦闘もなく敗走した。政府の腐敗と軍の士気の低下は目を覆うものがあった。アフガンの教訓は「同盟国といえども、自分の国を守る意思も気概もない国を米国が守る必要はない」ということだ。米軍撤退の意味することは30年前にフィリピンが実証済み。東南アジア最大の米海軍、空軍基地の撤退を迫った結果、中国の南シナ海への軍事進出を許した。東アジアの軍事バランスを中国有利に変える大きなきっかけを作ったのである。
中国は早速、心理作戦を展開する。台湾に向けてサイゴン陥落(1975年)になぞらえて「同盟国との約束も信頼できないことを示した」と連日のメディア・キャンペーンを張っている。米国の信頼性を疑わせ、同盟、友好関係にくさびを打ち込む。一方で、主導権確保のための外交攻勢も目覚ましい。カブール陥落を見越したようにその二週間前の7月下旬、王維国務委員・外相はタリバンNO.2のバラダル師を中国・天津に招き、早くも「関係強化」の手を打った。陥落直後の16日にはロシアのラブロフ外相と電話会談し「戦略的な協力強化」を約し、同時に米国のブリンケン国務長官とも会談。19日には英国のラーブ外相、20日イタリアのディマイオ外相と、連日電話会談しタリバンへの協力姿勢を強く打ち出している。中国はタリバンとは非公式ながらコミュニケーションを取り続けてきた。天津会談もその成果だろう。
一方で新疆ウイグル自治区の独立運動に結びつくのを強く警戒。ロンドンの国際戦略研究所(IISS)の分析レポート(20日)は中国が「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)のようなテロリスト組織の安全地帯にアフガンがならないようタリバンの保証を求め続ける」として、中国政府のウイグル族の扱いがタリバンとの関係の鍵になるとの見方を示している。NATOは20日、臨時外相会議の声明でアフガンが再び国際テロの安全な避難地にならないようタリバンに警告した。ストルテンベルグ事務総長は記者会見で敗北の「教訓」を繰り返し強調、衝撃の大きさを示した。日本にとっての教訓はバイデン発言に尽きる。「自分の国を守るため日本国民が戦わない戦争に米国は参戦しない」ということである。米政府は尖閣諸島への日米安全保障条約第五条(米国の防衛義務)の適用を繰り返し言明しているが、無人島での米中対決に米軍戦力を投入するのか、米国内には否定的な議論が強いことは注目すべきだ。尖閣危機の最中、軍事的緊張が高まる台湾有事、即ち「日本有事」の際の日本の関わり、そのための日米統合の防衛体制について真剣で公の政治討議を始める必要がある。これは政府・与党のみならず、野党を含めての責任だ。何を置いても大事なのは国を守る国民の気概である。
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