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2021-09-02 00:00
コロナ禍の五輪が変えた価値観
赤峰 和彦
自営業
コロナ禍の東京五輪が閉幕しました。選手たちの真夏の競演を見ていて、従来の価値観が時代とともに変わってきているという事実に気が付きました。五輪はいかなる国家であっても愛国感情を燃え上がらせる一大イベントになっています。それゆえに、選手たちも全てと言っていいほど国家を背負って競技に臨まねばなりませんでした。しかし、今回の五輪で採用された新しい種目を見ていると選手たちに従来のような悲壮感はありません。スケートボードでは成功や失敗を一緒になって喜んだり悲しんだりして楽しく演技していました。ボルダリングではライバル関係にある選手たちがみんなで攻略法を協議していました。今までに見たことのない光景です。新種目の選手たちには、人種や国境の壁などは存在せず、互いを仲間と認め合っているからだと思います。
この新鮮な光景は、これまでの国威発揚の五輪にこだわっている人には受け入れがたいものであったようです。国家の栄光を背負って戦う野球のような高揚感を味わえる団体競技とはまるで異なる新種目は、メダル獲得数以外は、評価の対象外であるように見えました。一方、ナショナリズムの高揚を嫌って五輪の開催反対を叫んでしていた人たちにとっても新種目は意外に受け入れられなかったようです。人種や国境に壁がない選手たちの姿が、逆に五輪反対の口実をつくれなかったためだと思います。それは彼らの口から「新競技が国際社会に平和をもたらすモデルになる」といった意見が一言も発せられなかったことが証明しています。そして、何よりも五輪によるナショナリズムを煽って売り上げや視聴率を稼ごうとするメディアにとっても、国家を背負っていない選手たちには話をプライベートに振るしか方策はなく、極めて扱いづらい素材であったと見て取れました。これらのことを逆説的にとらえれば、新種目が五輪に革命的な息吹を吹き込んだといえると思います。とりわけ、自と他を峻別することなくすべてを仲間として受け入れる考え方が、人種や国境の壁を乗り越えさせる原理になりうることを人びとに示唆したことの意味は極めて大きいと思います。先年のラグビーワールドカップでも、国籍は違っても、心を通わせ互いの文化伝統をよく理解することによって、人種や国家というわけ隔てる考え方が自然になくなることが示されました。若い世代の成長とともに、あと10年もすれば国という枠組みはあったとしても人種とか国境の壁は遺物に扱われてくるように思われてなりません。学生時代からナショナリズムの運動に携わってきた私自身にとっても新たな視点を与えられた出来事でした。
IOCにとっていま一番頭が痛い問題は2022年2月の北京冬季五輪が開催できるかという問題です。コロナ禍が収まっていなくとも東京五輪のように無観客で開催したいという意向を持っているのですが、問題の焦点は中国の人権弾圧をめぐって、欧米諸国がどう判断するかということに気が気ではありません。現に、五輪のスポンサー企業に対して「中国の人権弾圧に加担するな」というメッセージが続々と寄せられ、五輪と企業イメージを天秤にかけはじめています。IOCが現状の既得権益に固執して対策を実施しない限り、これからは企業が五輪から撤退を始めることは確かで、五輪存続にIOCは苦慮することになりそうです。その上、独占放映権を持つアメリカのNBCの五輪視聴率が低迷し、IOCを慌てさせています。IOCの商業主義がスポーツとしての魅力を半減させたことに対する反発とではないでしょうか。一方、日本国内においてはメディアに逆風が吹いています。コロナ禍を理由に五輪開催に反対したメディアの本音は中止後の混乱を期待していたからですが、その煽動が企業の広告を激減させる結果をもたらしました。同様に、五輪中止を求めていた政治家も本音はナショナリズムの高揚を恐れていたからですが、五輪が開催されたことでその恐れが現実のものとなってしまいました。結局、今回の五輪を見て言えることは、自分の利益のために五輪の開催問題を利用してきた人にとっては望まざる結果がもたらされそうにあることに注目すべきだと思います。
今回のコロナ禍での五輪は従来の価値観を大きく変える転換点であったと言えるのではないかと思います。なかでも、新種目で示された人種や国境の壁を乗り越えようとする考え方は多くの人に新鮮な共感を与えたと思います。この考え方を大きな現実に拡大していけばよりよい未来はきっと来るはずです。このことを考えるとき東京五輪の意味は極めて大きいと言わざるを得ず、困難のなかにあって東京五輪を開催した日本国政府と東京都知事に感謝せずにはいられません。
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