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2021-09-02 00:00
「黒い雨」訴訟と日本の古い核政策
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
何時もの夏と同じように今年もまた広島・長崎の原爆記念日がやってきて、そして過ぎて行った。何時ものように何も変わらずに過ぎて行った。まあ、少し何か加えるものが有ったとすれば、いわゆる「黒い雨」訴訟で敗北した広島県市に対して、国が控訴をしないように指導したこと。そして、すでに原爆記念日前には勝訴した人々に被爆者手帳を交付したこと、訴訟人以外でも当日同一地域にいた人々にも手帳を交付するのはもちろん、なお長崎市の被爆者についても同じ扱いを考えるとしている点、今まで被爆者にあらゆる点で冷淡であった日本政府の変化として、首相の口から「好いこと」として語られたことであった。
報道やネットで話題が沸騰したのはそちらではなく、菅首相が式典で持参した挨拶文を読み飛ばし、それを異常と認識するでもなく訂正もせずにいたことが専らの話題になったに過ぎなかった。しかし、問題はそんなところには無い。毎年、主催の広島市長や長崎市長のあいさつでその調印が要望され強調される「核兵器禁止条約」に「唯一の被爆国」たるこの国がいまだに調印していないばかりか、提案国にすらならなかったこと、それについて安倍前首相がそうであったように菅首相もまたこれを意図的に無視し、スピーチでこれに全く触れなかったことである。つまり、日本政府にかぎって核廃絶の政治的立場をまったくとらない。これは、核兵器の必要性を確信しているためである。事情通の説明は、日米安保における米国が所有する核を否定することは「核の傘」に期待する立場としてあり得ないと言う。
しかし、この政治的企図は、日本を守るために米国が所有する核兵器への過剰な期待感であり、畢竟核戦争の暗黙の承認に他ならない。つまり、米国は、日本を守るために共通の敵に対して核使用を躊躇しないことを暗黙の前提とする。だが、決してアメリカ(いなすべての核保有国)は自国防衛以外に核兵器を使用することなど断じてないと考える。ひとたび核兵器が発射されたら報復核の応酬が発生するのは自明であって、先制攻撃したアメリカの本土が無傷で終わることなど断じてないからである。である以上、米国が日本防衛のために核保有する(日本の)敵国に核攻撃することなどありうるだろうか。
要するに、米国は日本防衛のために持てる核システムを作動する愚は決してしないのである。日本が核禁条約に賛成しようと反対しようと米国が他国防衛にこれを使うことはないであろう。そして、全核保有国に共通する核政策でもある。これぞ、「核」に付与された相互確証破壊がもたらす属性に他ならない。核装備は徹底的に利己主義的兵器なのである。岸信介以来日本の日米安保理解がなお改まらないのは大きな問題である。核の傘政策を妄信する安保感を払拭するためには、根本的な政治刷新の必要性があるのではないか。
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