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2021-09-10 00:00
「9・11」テロ20年、アフガンの蹉跌
鍋嶋 敬三
評論家
2001年9月11日の米同時テロから20年。国際テロ組織アルカイダの19人が旅客機4機をハイジャックしてニューヨークの世界貿易センターの北および南棟、ワシントン郊外の国防総省(ペンタゴン)に突っ込み、ペンシルバニア州にも墜落して日本人24人を含む3000人が犠牲になった。「60年前の日本による電撃的な真珠湾攻撃のようにアメリカがグローバルな戦争に引きずり込まれた」(2004年米調査報告書 "The 9/11 Investigations")衝撃は巨大であった。米本土における初の大規模な攻撃は「超大国アメリカに対する宣戦布告」であり、第二次世界大戦後、米国が築いてきた「リベラルな国際秩序」に対する挑戦だったからである。
その時、筆者は対日講和条約締結50周年記念で日米の有識者が組織した国際会議に参加するため条約調印地の太平洋岸サンフランシスコにいて帰国直前だった。突入と同時に全米の空港が閉鎖され家族ともども帰国できなくった。米国の大都市が戒厳令下のように「封鎖」され、警察犬を連れ自動小銃で重武装した警官のほかは人の姿が見えない「ゴーストタウン」になった光景は終生忘れ得ない。米国の「対テロ戦争」はアフガンに10万人の兵士を送り込み2兆ドルの戦費を費やしたが、2400人以上の犠牲者を出した末、20年後の2021年8月31日を期して米軍の撤退に追い込まれた。英国、ロシアに続いて米国もアフガニスタンの「帝国の墓場」に名を刻むことになり、中東地域だけでなく国際関係全般での影響力の後退は避けられない。
第一に中国とロシアの対米連携の強化である。カブール陥落後の8月26日、習近平、プーチン両首脳が電話会談。新華社によると「中露は新時代の包括的戦略パートナーとして反干渉の協力を深めるべきだ」(習)、「ロシアと中国はアフガン問題で利益を共有している」(プーチン)と強調、「緊密な意思疎通と協調の強化」を確認したのである。両国は既に6月28日の首脳テレビ会談で7月16日に20周年を迎える中露善隣友好条約の延長を正式に宣言し、「戦略的提携を深化させる」(王毅国務委員・外相)と結束を確認。米国がトランプ、バイデン両政権下で進める「インド太平洋戦略」を牽制する狙いもあった。第二に米国の同盟関係への影響である。北大西洋条約機構(NATO)は6月14日、首脳会議共同声明で中国を「体制上の挑戦」と初めて正式に非難、トランプ時代に傷付いた米欧関係をバイデン大統領の集中的な欧州歴訪で修復したばかりだ。性急な兵力撤収で中東情勢に大きな不安をもたらし、NATO 軍を派遣してきた欧州との溝を再び広げることになれば、米国の対中戦略上も大きな損失になる。
邦人を国外避難させる自衛隊機派遣の決定が遅れたため、脱出できたのは邦人1人、米国に依頼されたアフガン人協力者14人のみで、500人とされる協力者は空路退避できずにいる。自衛隊法上の「壁」が指摘される。第84条の邦人らの輸送の「要件」として「安全の確認」や国際法上、「相手国の同意」が必要とされるのは矛盾した規定である。情勢が危険だから民間人の救出のために自衛隊機が派遣されるので、「安全」なら民間機でできるのである。現地政権が崩壊すれば「同意」が得られるわけがない。対照的に韓国は一日違いで390人の脱出に成功した。日本の「救出失敗」で内閣の危機管理能力の低さが浮き彫りにされた。菅義偉首相の退陣表明(9月3日)以前に、内閣の末期的症状が露呈していたと言うべきであろう。次期政権は自衛隊法の改正はもとより、グレーゾーンを含めた有事、大災害やパンデミックを含め国家非常事態に際し、国民全体を守るために私権の一部を制限し得る法的措置を講じる必要がある。それを国民に明確に訴え理解を得て実現することが新しい首相に課せられる責務である。困難な時にこそ強い指導力が求められる。
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