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2021-09-24 00:00
「北方領土」が霧の彼方に消えていく
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
ロシアのプーチン大統領は9月3日、極東ウラジオストクで開催中の東方経済フォーラム(2015年以来、ロシア極東部へ外国からの投資を促す目的で、毎年9月にここで開かれてきた国際会議)に出席し、北方領土問題を含む日本との平和条約交渉について「ボールは日本側にある」と述べたという。どういう種類の、どういう形状のボールかは説明がない。
「戦後」すでに70年という長い時間を経てなお、「平和条約」締結という「戦後処理」が果たされていない日露関係。もともと一方の主体はソビエト連邦で「日ソ交渉」というべき外交テーマなのだが、ソ連は今や存在すらなく、「北方領土問題」とは、下手な仏師が「ああしようか?」か「こうしようか?」と納得のいかないままに仏像のお顔を撫でまわしている間にその鼻を欠いてしまったというような、日露両国にとってもはや宿痾となった外交問題となってしまった。
祖父にも大叔父にもそして父にもできなかった「北方領土」問題で、安倍晋三氏は「政治的レガシー」を得たいと思ったのであろう。「外交の安倍」の真価をかけてこれに取り組み、「ダレスの恫喝」以降一貫して核心的主張としてきた「四島一括返還」の錦の御旗を降ろし、大幅譲歩の「二島返還」のショートパスで突破しようとしたものの、これすらもプーチン大統領の心を開くこと叶わず失敗に終わってしまった。安倍前首相とプーチン氏は「シンゾウ!ウラジミール!」とファーストネームで呼び合う仲という触れ込みで、事実27回もの多数の会談を重ねた。日本政治史上最長政権とは言いながら、同盟国である米大統領ではなく、仮想?敵国であるロシアの大統領とひざを突き合わせた回数の方が多かった。日露外交には安倍氏の思いに並々ならぬものが有ったのであろう。しかし、そこはそれ、その熱意こそがプーチン氏の猜疑心を煽っていることを分からなかったのが安倍外交の限界でもあった。プーチン大統領は五条の橋の牛若丸よろしく、<前や後ろや右左、ここと思えばまたあちら、燕のような早業で>体をかわし話を変えてついに今日に至ってしまった。
そんな安倍氏の政権を居抜きで受け継いだにも拘わらず、菅義偉首相はコロナ禍に振り回され続けて、この問題には何一つ外交的アクションを起こすこともなく、安倍氏が過去4年連続参加した「東方経済フォーラム」にも参加しなかった。それどころか、これが開幕したその日9月3日には菅氏は自分の政権を投げ出してしまったのである。日露両国を隔てる大きな壁、あの「ダレスの恫喝」に象徴される「米露の壁」という自民党政権にはとても乗り越えられない要因によって北方領土問題は閉塞していると言わざるを得まい。世界の終末まで永久凍土に埋もれた「和解の鍵」は地上に姿を現さないのではないかと思わせるほどである。日露関係は、北方領土問題の解決からではなく、まずはこの「壁」の構造的な問題から取り組むのでなくては、「ハルマゲドン」が来る方がむしろ早いくらいではないか。
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