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2021-09-27 00:00
菅外交の置き土産「QUAD」
鍋嶋 敬三
評論家
日米豪印4ヶ国(QUAD=クアッド)による初の対面の首脳会合が9月24日ワシントンで開かれた。退任間近の菅義偉首相にとっては最後の外交舞台となった。首脳声明で「QUADは(自由で開かれたインド太平洋)地域の平和、安定、安全保障、繁栄の力であり」、「国際法の擁護者」として「東、南シナ海を含むルールに基づく海洋秩序への挑戦に対抗する」と宣言した。名指しはしないが、力を背景に現状変更の既成事実を重ねる中国への警告である。サミットではQUADの首脳、外相級会合の定例化を決めた。条約や協定に基づかない非公式な組織ながら、軍事以外のサイバーなど安全保障、経済や技術革新、気候変動、新型コロナ対応に至る広範囲の分野で協調体制が確立され、地域・世界に影響力を発揮し得る存在に成長した。アフガン撤退で相対的な力がさらに低下する米国にとっては対中戦略上、大きな利益になる。
QUADはトランプ政権時代の2019年に国連総会を利用して始まり、20年には東京で外相会合、21年2月には同オンライン会合でアジアや欧州の国々とも協調する姿勢を打ち出した。3月に初の首脳会合をテレビ形式で開き、コロナ・ワクチン、気候変動、新興技術の専門家会議の設置など「制度化」に一歩踏み出した。米国はQUADを「インド太平洋」という枠組の「核心」(サリバン大統領補佐官)ととらえている。外交・安全保障戦略上の位置付けについてバイデン政権高官は「21世紀の挑戦の多くがインド太平洋で生じ、米国はそれに注力する」として「この先の挑戦の時代に向かう共通の議論の重要で不可欠の場である」と述べた。共同声明では地域のインフラ(社会基盤)需要の高まりを受けて「新QUADインフラ・パートナーシップ」を創設、需要の調整や技術援助などを通じて持続可能なインフラ開発を促進することを明記した。過剰融資で途上国を「債務の罠」に陥れるという批判が強い中国を意識したものだ。
共同声明の付属文書では、4ヶ国が協力する分野として(1)新型コロナウイルス対策のワクチン(2)インフラ(3)人的交流と教育(4)重要・新興技術(5)サイバー安全保障(6)宇宙ーを挙げた。さまざまな分野で中国の挑戦に対応するには米国一国では不可能だという認識が定着した。QUADについて米高官は「地域の安全保障機構ではない」、「インド太平洋地域が直面する個別の問題に対応するもの」と語る。これは中国包囲網と受け取られ、中国を刺激したくないインドや域内の東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々に配慮したものだ。しかし、半導体サプライチェーン(供給網)やサイバー技術などは中国が進める「軍民融合」戦略と同じく軍事にも深く関わる。一方、米国は直前の15日に英国、豪州と3ヶ国による安全保障の新枠組みAUKUS(オーカス)を立ち上げ、米英が豪州に初の原子力潜水艦の建造を支援する。英国は夏には最新空母クイーンエリザベスを太平洋に展開し、米日豪と合同演習を実施した。バイデン政権としてはAUKUSと QUADが役割を分担しつつ、総体としてインド太平洋での影響力を保持し続けるという計算がある。
菅首相は短期間にもかかわらずバイデン大統領と強い信頼関係を築いた。ジル大統領夫人が24日の日米首脳会談に自らの希望で同席したのは異例のことだ。米高官によれば、菅首相はトランプ政権が脱退し、最近中国や台湾が加入申請した環太平洋経済連連携協定(TPP)について話したいと望み、大統領も「アジアへの経済関与の次の段階について日本の見解を聞きたい」との強い意向を示した。この高官は、菅首相は「すばらしいパートナーだ」という「大統領の感謝」の言葉を繰り返したが、大統領個人の親密な感情が入った評価は珍しい。ゴルフに興じた安倍晋三・トランプの間柄は「馬が合った」好例だったが、菅・バイデン関係も日米関係によい影響をもたらした。次の総理が自らのカラーを積極的に打ち出して首脳間の信頼関係を早急に築くことを願う。
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