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2021-10-08 00:00
(連載3)カーボンニュートラルと原発問題―COP26を前にして
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
次に、脱炭素と世界及び日本の関係を概観したい。脱炭素に最も熱心なのは、前述のように欧州だ。少し脱線するが、ここで欧州や中国が熱を入れている電気自動車(EV)について、少し私見をのべたい。最近メルセデスベンツもEVへの全面移行を公表した。EVと言うと「CO2 排出ゼロ」のイメージがある。しかし、当然のことながら、充電のための電力が必要であり、電力生産はそのすべが再エネにはならない。また、数百km走るための大容量の蓄電池や新型モーターの生産には、レア・メタル(レア・アース)が重要だ。さらに車生産費の4割を占める大型蓄電池の生産や使用後の処理には、相当のCO2が排出される。したがって、日本が開発した高性能のハイブリッド車と比べると、走行時だけでなく車の生産や処理のための総合的CO2排出量は、EVとハイブリッド車の間には、さほど大きな差はないとも言われる。ポーランドのように、石炭発電が主要な電源となっているところでは、ハイブリッド車よりもEV車の方がCO2排出量はむしろ多いと指摘する専門家もいる。これらは日本がきちんと国際的に発信すべき情報あるいは見解だ。フランスやイタリアなどはかつて日本車や日本の電化製品に対して、差別的輸入制限を行ったが、欧州のハイブリッド車を排除したEV一本化政策は、日本車排除を意識していないと言えるだろうか。中国がEVに熱心なのは、蓄電池で世界市場の独占あるいは寡占を目指しているからである。
さて再び本題に戻って脱炭素と世界の傾向を簡単に概観したい。米国は民主党が推進派で、共和党支持者の多くはそれに懐疑的だ。国民が2分しており、今後も政権交代でエネルギー政策も当然変わる。発展途上国の大部分は脱炭素以前の産業近代化が喫緊の課題である。ただ、途上国は自然や土地、太陽熱の豊かな国が多いので、風力発電、太陽光発電、水力発電で電力生産をしてそれを輸出し、最近の先進国の脱炭素ブームに合わせて、電力による水素やアンモニア生産とか、バイオエネルギー生産に乗り出す国もある。
中国は、太陽光パネル、風力発電機、蓄電池の生産、またそのためのレア・アース(メタル)分野ですでに世界で圧倒的な地位を確立しており、欧米におけるEV化も、今では中国製の蓄電池無しでは考えられない。中国は、脱炭素の動きを、ビジネス面での世界支配のチャンスと見ているが、欧州のような脱炭素の信仰者ではない。ロシアも豊かな自然資源故に、脱炭素を信仰しておらず、むしろロシアにとって不都合な動きと内心では思っている。
国外とのエネルギー輸送網を持てない日本は、不安定な再エネに過大に頼ることはできない。日本は太陽発電パネルの開発国であるが、現在のわが国の太陽発電パネルは多くを輸入に頼り、輸入の79%が中国製である。価格が安いからだ。日本が自動車生産でEVを主流にした場合、中国に依存しないと断言できるだろうか。中国との間の尖閣問題が将来は琉球問題に発展する可能性もある。その時日本は、中国に毅然と対応できるだろうか。
英国でのCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)も10月末に迫っているが、国際動向から見て、わが国も脱炭素に一定の歩調を合わせて協力する必要はあるだろう。しかし、日本のエネルギー政策の重点を、不安定な再エネ中心に置くことはできない。
やや飛躍した言い方だが、今後最も重要となる地政学的な対中露政策の観点からも、今こそ冷静に、原子力発電を見直すべき時ではなかろうか。これは単にエネルギーの観点からではなく、かつては世界の最先端にあったわが国の原子力研究・技術の継承のためでもある。それが今は、危機に瀕しているからだ。日本はCOP26その他の場で、単に欧州に追随するのではなく、日本の見解をもっと積極的に主張し発信する必要がある。(おわり)
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