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2021-10-27 00:00
(連載2)アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義
河村 洋
外交評論家
上記のような親西欧政権の成功面に鑑みれば、アメリカが党派にかかわらず撤退を決定したのはなぜか理解する必要がある。それによる混乱と地政学的な力の真空は容易に見通せるだけに。アメリカは自国の国益のためにアフガニスタンを見捨てたとの声もある。しかしそれをどのように、しかも誰が決めるのか?アフガニスタンでの長い戦争には超党派の厭戦気運が漂ってはいたが、ワシントンのシンクタンクであるヨーロッパ政策分析センター(CEPA)のカート・ボルカー氏は「アメリカの軍事および外交を司る最上層部の高官達はこの10年間で一貫して、有力政治家達には米軍撤退によってアフガニスタン政府の崩壊、人道的な被害、そして敗北したアメリカによる同盟国見捨てという認識がもたらされるだろうとのブリーフィングを行なってきた」と論評している。アフガニスタンに関し、トランプ氏もバイデン氏もどれほど外交政策エスタブリッシュメントを疎外して左右のポピュリストから歓心を買おうとしたかをボルカー氏は語っているのだ。
そうした見解はアメリカを代表する外交政策形成者達の間で共有されている。しかしバイデン氏が彼らの批判に妥協しない理由は、有権者がアフガニスタンでの「長い戦争」への厭戦気運にあり、彼自身も内政問題と中国との戦略的競合に優先順位を置くようになったためである。コンドリーザ・ライス元国家安全保障担当補佐官は『ワシントン・ポスト』紙8月17日付けの投稿で、「バイデン氏はアフガニスタン国民のネーション・ビルディングをもっと暖かく見守るべきだった、そして世界からのアメリカへの信頼回復のためにもウクライナ、イラク、そして台湾への関与を強化すべきだと論評している。またアメリカの有権者にはアフガニスタンの戦争が常軌を逸して長かったわけではなく、朝鮮戦争は今も形式的には続いている」と説いている 。
軍事戦略の観点からは、アメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン氏が『ニューヨーク・タイムズ』紙8月12日付けの投稿で「バイデン氏はトランプ氏がタリバンと成した合意を破棄することもできたのに、そうしなかった」と評している。外交問題評議会のマックス・ブート氏も同様に『ワシントン・ポスト』紙への8月12日および19日の投稿で立て続けにトランプ氏の偽善とバイデン氏のタリバン進撃に対する鈍い対応を批判している。2020年にタリバンとトランプ政権双方の間では、テロリストにアフガニスタンをアメリカ本土への攻撃に使用させないとの合意が結ばれた。しかしIS-Kに見られるように他の過激派によるテロ攻撃が、タリバン統治下のこの国で再び強まっている。さらに合意に従うことなくガニ政権との和平交渉を進めなかったばかりか、彼らは前政権をカブールから追放した。多くの専門家達が言うようにトランプ氏はガニ氏に圧力をかけ、タリバンの捕虜5千人解放と引き換えに3ヶ月の停戦交渉を行なうように仕向けた。バイデン氏はその合意を破棄せず、アメリカの同盟国は見捨てられることになった。
今回の撤退計画にはバイデン政権内からも異論があった。ボブ・ウッドワード氏とロバート・コスタ氏の近著『Peril』によると、アンソニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官は大統領に性急な撤退はしないようにと訴えたが、それは聞き入れられなかった。また9月28日の上院軍事委員会ではマーク・ミリー統合参謀本部議長とケネス・マッケンジー中央軍司令官が、トランプ氏もバイデン氏も同じ「戦略的失敗」を犯し、タリバンがアフガニスタン政府を相手にあれほど早く成し遂げたカブール制圧を阻止するために最低でも2,500人の地上兵力を残しておかなかったと証言した。(つづく)
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