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2021-10-28 00:00
(連載3)アフガニスタン撤退と西側の自己敗北主義
河村 洋
外交評論家
明らかにバイデン氏とトランプ氏は国家安全保障政策に関わってきた者達を脇に追いやった。ここで国際社会からの批判を代表して、イギリスのトニー・ブレア元首相の見解を取り上げたい。ブレア氏がアフガニスタン撤退直後に反論した理由は、その決定が戦略的な考慮よりも内政事情に基づいてなされたからである。さらに優先順位を間違えば 、西側民主主義諸国はイスラム過激派の脅威に対して脆弱になり、それによって中国とロシアを勢いづけてしまうと主張する。そのようにアメリカ国内の孤立主義気運で左右双方から外交政策エスタブリッシュメントが足を引っ張られる事態に鑑みて、ブレア氏は9月6日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)での演説で「ヨーロッパとNATOは自主防衛行動のための能力を高めて西側民主主義を守り抜かねばならない」と説いている。非常に重要なことにブレア氏が言う自主防衛とは普遍的価値観に基づいていて、そこには日本の靖国ナショナリストのようなリビジョニズムの発想はない。
歴史的に見て「アメリカ人は自国が国際的な危機にみまわれた時には熱しやすいが、それが過ぎると冷めやすいことは第一次世界大戦のルジタニア号事件に見られる通りである」とブルッキングス研究所のロバート・ケーガン氏は『ワシントン・ポスト』紙8月26日付けの論説で述べている。ドイツを破ってしまえば、米国民は世界と関わる熱意など失ってしまった。当時と同様にアメリカ人は9・11同時多発テロに怒り心頭であったが、テロ被害からの世界秩序の再建などは欲していなかった。彼らがテロとの戦いを熱心に支持した時には次のテロ攻撃への恐怖に駆られていた。
しかし長い戦争を最中で有権者達が次のテロ攻撃はないものと感じるようになると彼らは戦争に懐疑的になり、それどころか国家安全保障エリートによる陰謀を疑うようにさえなった。それが厭戦気運の現実である 。そのようなケーガン氏の見解からすれば、当時のイスラム教徒差別が激化した理由は、コロナ危機以降のアジア人差別の激化と同様だと理解できる。また外交政策エスタブリッシュメントがウィルソニアンのビジョンを追求した一方で、有権者はジェファソニアンあるいはハミルトニアンの本能を維持し続けた。ジャクソニアンどころかデビソニアンとさえ見られているトランプ氏は2016年に、この機を逃さなかった。バイデン氏はトランプ前大統領から政権を奪取したものの、このような状況を覆すだけの意志も能力も持ち合わせていない。
大統領選挙直前に開催されたあるウェビナー会議では、日本を代表する専門家達によってバイデン氏が提唱する「中産階級のための外交政策」の意味が議論されていたが、遺憾にも私は彼のキャッチフレーズを軽く見てしまった。それは外交政策エスタブリッシュメントがトランプ氏の再選を怖れ、殆ど一致してバイデン氏を支持していたことが主な理由である。またトランプ氏は在任中にロシアのウラジーミル・プーチン大統領と歩調を合わせるかのようにアメリカ民主主義の評判を落とす言動さえとったので、トランプ政権下でロシア問題担当補佐官を務めたフィオナ・ヒル氏はトランプ氏がロシア以上に国家安全保障上の脅威になると述べている。上記の観点から、私は左右の枠を超えたウィルソニアンの専門家達によるバイデン氏への熱心な支持に強く印象づけられていた。さらにバイデン陣営は上院外交委員会でジョン・マケイン氏と超党派で問題に取り組む写真を頻繁に流した。しかしバイデン氏はバイデン氏であって、マケイン氏ではないことに私は気付くべきであった。(つづく)
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