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2021-11-04 00:00
(連載2)米軍のアフガニスタン撤退の背景
村上 裕康
ITコンサルタント
2.米軍撤退後のアフガニスタン
20年にわたるアフガニスタンにおける対テロ戦争で、米国は約2.3兆ドルのコストを費やし、米軍関係者約7000人の命を犠牲にしてアフガニスタンから撤退した。莫大なカネと人をつぎ込んだにも関わらず、国連の報告によるとアフガニスタン国内にはアルカイダのメンバーが数百人いて、今も活発に活動しているという。米軍が撤退した後、タリバンが政権を掌握して以来2か月経つが、アフガニスタンは経済破綻の瀬戸際に立たされ、3800万人の市民は貧困と飢餓に苦しんでいる。国連は1400万の人が飢餓に直面していると警告した。食品価格は上昇し、失業者が急増して、経済は切迫した状況にある。
10月12日タリバンはドーハで欧州連合(EU)および米国の代表団と会談し、タリバン暫定政権の承認と人道機器を回避するための支援を要求した。会談において、米側は残留米国人の安全な出国を要求すると共に、アフガニスタンにおける女性の地位向上を含む人権問題の改善を要求した。EUは「暫定政権」を承認するものではないとしながら、アフガニスタンの経済が破綻すればテロなどの脅威が高まるとして、10億ユーロの支援を約束した。タリバンが治安を維持できなければアフガンが再びテロの温床になりかねない。国際社会は人道支援を進めつつタリバンの懐柔を図っている。
アフガニスタンと国境を接する中国、ロシア、パキスタン、イランおよび近隣諸国は、米軍がいなくなって地域のパワーバランスが崩れ、イスラム過激派の動きが活発化するのではないかと警戒している。中国およびロシアは、表向きアフガニスタンからの米軍の撤退を求めてきたが、米軍の撤退が始まると「米軍の撤退は無責任である」と米国を非難している。中国は、イスラム過激派の新疆ウイグル自治区への浸透を恐れている。中国はイスラム過激派組織である東トルキスタンイスラム運動がアフガニスタンのイスラム過激派とつながることを恐れている。特にウイグルイスラム過激派であるトルキスタンイスラム党(TIP)の動きを警戒している。先日、アフガン北部のモスクで起きた自爆テロで、イスラム過激派のIS-Kが犯行声明を出しているが、IS-Kとウイグルのつながりも懸念されている。中国はアフガニスタンがイスラム過激派の温床になることを恐れている。中国はタリバンにアフガニスタンの安定化を託し、イスラム過激派の取り締まりを求めている。アフガニスタンは、中国にとって経済的利益という点から関心の対象である。アフガニスタンは東西にユーラシアを横断する路と、南北にアラビア海に繋がる路が交差する要衝に位置する。「一帯一路」戦略を進める上でも、地政学的な要衝にある。またアフガニスタンは世界最大のリチウム埋蔵量を誇る鉱物資源の宝庫である。中国は人道支援を通してタリバンとの関係強化を狙っている。ロシアは、アフガニスタンと国境を接する旧ソ連の周辺諸国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、トルクメニスタン)にイスラム過激派が流入することを警戒している。
タリバンは主に多数派民族のパシュトントン人からなるが、アフガニスタン北部地域はタジク人が多く、隣国タジキスタンの支援を受けた北部同盟軍はタリバンの支配に対してレジスタンス運動を展開している。10月21日、首都カブールに電気を供給する送電網が爆発により破壊され、同市で停電が起きた。北部に国境を接するウズベキスタンとタジキスタンからの送電に依存するアフガニスタンでは、送電網が反政府勢力の標的になっている。民族間の対立が激しい多民族国家のアフガニスタンを統合することは難しい。イスラム教シーア派の信者が大半を占めるのがハザラ人である。イスラム教スンニー派に属するタリバンとは相容れず、少数派のハザラ人がタリバンに殺害された事件も発生している。
ロシアは米軍の撤退後、中央アジアに力の空白が発生することを恐れ、ロシアの周辺諸国から構成されるCSTO(集団安全保障条約機構)の枠組みで合同軍事演習を行った。ロシアはこの地域で影響力を誇示した。
ロシアは10月20日に中国、パキスタンなど9か国とアフガニスタンのタリバンをモスクワに招いて地域の安定化を目指す会議を主催した。ロシアはタリバン政権の承認については明言を避けたが、食糧不足などが深刻化しているとして、アフガニスタンへの人道支援を進める考えを示した。ロシアは、暫定政権に民族・宗教上の少数派を加えていないことから、タリバンが主体の暫定政権を拙速に認めることはないと強調した。(つづく)
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