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2021-11-05 00:00
(連載3)米軍のアフガニスタン撤退の背景
村上 裕康
ITコンサルタント
3.アフガニスタン撤退政策の背景
タリバンの攻勢の下、アフガニスタンの政府軍は崩壊し、米軍はタリバンに屈する形でアフガニスタンから撤退した。米軍もISISの自爆テロで13人の犠牲者を出している。アフガニスタンに米国市民あるいは同盟国の国民を残したまま、米軍は撤退を完了した。タリバンの復権を許し、前線に自国民を残しながら軍が先に撤退してしまったことに対して、非難の声が広がっている。
一方、20年にわたるアフガニスタン戦争を終わらせたバイデン大統領の英断を評価する声もある。バイデン大統領は8月31日、ホワイトハウスの演説で、「他国を再建するために米軍を派遣する時代は終わった」と宣言し、「20年に及ぶ米史上最長の戦争に終止符を打った。国益がない戦争の継続は拒否する」と撤退の正当性を強調した。また「米国にとって正しく賢明で最善の決断だ」と理解を求めた。米国にとってアフガニスタンの戦略的価値が低くなり、米軍を駐留するコストが得られる利益を上回るならば、撤退時期、撤退方法、政治的リスク等の判断は議論の対象として残るものの、米軍撤退の判断は妥当なものであっただろう。
米国は2001年の9.11同時多発事件をめぐって、イスラム過激派のリーダーであるビン・ラディンが事件の首謀者であると断定して、タリバンに対してビン・ラディンの引き渡しを要求した。しかし、タリバンはこの要求に対して応じなかったことから、タリバンはビン・ラディンをかくまっているとして、ブッシュ大統領はアフガニスタンを実効支配していたタリバンへの攻撃を始めた。これが、アフガン戦争の始まりのいきさつである。米国はタリバン政権を崩壊に追い込んでアルカイダを駆逐すると、2001年の末にはカルザイ政権を発足させている。米国はさらにアフガニスタンを民主国家にするという構想を立てて、実行した。この構想の背景には、米国を中心とするグローバル化を推進しようというネオコンがいた。彼等は、中東や中央アジア圏において石油利権の確保、多国籍企業の事業拡大、あるいは軍産複合体企業の事業拡大を狙って、新自由主義的な政策を進めた。イラク戦争も、「テロとの戦い」あるいは「民主化」を旗印にグローバル化政策を展開したという点では、アフガン戦争と共通している。
しかし、タリバンの脅威が増す中で、民主化国家を設立することはできずにアフガン戦争は長引いた。状況が泥沼化する中で2009年、オバマ政権がブッシュ政権を引き継いだ。軍部からの要求に応じて、オバマ政権はアフガニスタンへの増派を発表した。同時に、オバマ大統領は米軍の撤退計画を公表した。2011年から米軍の規模を段階的に縮小し、2014年末までにアフガニスタンにおける米軍の軍事行動を終了するとした。2011年5月、米軍はパキスタンに身を隠していたビン・ラディンを殺害すると、オバマ大統領は「反テロ戦略は成功を収めた」と評価して、米軍の段階的な規模縮小に着手した。
米国の戦略転換の裏には、米国にとってアフガニスタンの戦略的価値が相対的に低下したことがある。一つは、地政学的な価値の低下である。中国が世界第2位の経済大国に成長し、アジア・太平洋地域における中国の軍事的プレゼンスが増大すると、米国はイラク・アフガニスタンに割り当ててきたリソースをアジア太平洋地域にシフトして中国の脅威に対処する方針を明らかにした。アフガニスタンの戦略的価値の低下は、経済的な価値の低下もある。2008年の世界金融危機を契機に、世界貿易(GDP比)の伸び率が鈍化した。グローバリズムの比重が低下すると、アフガニスタンの経済的な価値は下がった。
オバマ大統領のアフガニスタンから米軍を撤退させる方針は、トランプ大統領およびバイデン大統領に引き継がれた。バイデン大統領は、アフガン戦争の目的は「二度と米国攻撃の拠点にさせないこと」にあり、米国は既に(1911年)同時多発テロの首謀者ウサマ・ビンラディンを殺害し、テロ組織アルカイダを掃討したとして、アフガニスタンから米軍の撤退を断行した。撤退後の地域の安定は、引き続き米国の関心の対象である。軍事的関与は終了するが、地域の平和と安定を図るために外交的関与は継続する方針を明らかにした。アフガニスタンがテロの温床となり、米国の安全保障を脅かすような事態になれば、ドローンによる攻撃、あるいは爆撃による攻撃もあるとした。
そもそも、この地域の安定は中国やロシアの関心事である。中国およびロシアは、米軍の撤退でアフガニスタンがイスラム過激派の温床になることを恐れている。中国はイスラム過激派の新疆ウイグル自治区への浸透を恐れている。特にイスラム過激派とウイグルがつながることを恐れている。ロシアは、アフガニスタンを構成する民族間の紛争がロシアのCSTO諸国に飛び火することを恐れている。米国が、この地域の安定を中国やロシアに負担させようと考えてもおかしくないだろう。地域の安定を彼等に負担させることで、彼等のリソースを分散させることにもなる。また、この地域のコントロールをめぐって中国とロシアが牽制し合うことになれば、それは米国の利益でもある。(おわり)
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