ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
本文を修正後、投稿パスワードを入力し、「確認画面を表示する」ボタンをクリックして下さい。
2021-11-08 00:00
(連載2)プーチンの「平和条約」発言の深刻な問題点
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
このA氏の質問は、平和条約締結に向けてのプーチンの考えを尋ねるものだが、まず、日露間で領土問題が解決していない以上、「国境はもはやアナクロニズム」とのプーチンのテーゼを認めるべきではない。このようなテーゼは、1990年前後から2000年代初めにかけて、21世紀には国境、領土、領海、国家主権、国民国家といったものは博物館行きとなる、という国際政治のリベラルで楽天的な見解である。しかし、EUの現状や南シナ海・東シナ海問題を見ても、現実はこのテーゼとは全く逆方向に進んだことは、今では周知のことである。ロシアの行動自身が、このテーゼを否定している。
さらに深刻な問題だが、日露が同じように「平和条約」と称していても、その解釈は全く異なる。したがって質問者は、日露間で「平和条約」の解釈がまったく異なることをまず指摘して、その上で平和条約の展望についてプーチンの見解を質問すべきであった。つまり、わが国の立場は、かつてプーチン自身も認めていた「北方4島(南クリル)の帰属問題が未解決」すなわち領土問題が未解決という歴史的事実を前提に、領土問題を解決した後に締結するのが平和条約である。これに対してプーチンは2005年9月27日の国民とのテレビ対話で、「第2次世界大戦の結果南クリルはロシア領となり、国際法的にも認められている。これについて議論するつもりはない」と断言した。
その後今日まで、ロシア側が「平和条約交渉」と言う時、日本が「第2次世界大戦の結果を認める」ことが、交渉の前提条件だとの立場を貫いている。これに対し国際常識の立場からすれば、4島の主権(帰属問題)を決めるのが平和条約交渉で、平和条約をもって初めて戦後の日露関係は完全に正常化する。ロシア側が求める前提条件を受け入れるのであれば、そもそも平和条約交渉は不要、あるいは無意味となる。
このプーチン発言に対して、わが国のメディア上では、「ロシア大統領、平和条約交渉に期待感」とか「プーチンは平和条約への意欲を表明」「日本との平和条約目指す姿勢を強調」「首相交代でも平和条約目指す」「岸田首相との条約交渉の進展に期待感を示した」と言った見出しや文章が躍った。詳しく読めば、平和条約の締結は簡単ではないとの説明もあるが、これらの報道姿勢からは、プーチンは日本が経済協力などを進めれば、領土問題解決に前向きに対応する。新政権にもそれを期待する、としか読めない。A氏の質問は、結果的にそのような幻想を改めて引き出す役割を果たしたのではないか。(おわり)
投稿パスワード
本人確認のため投稿時のパスワードを入力して下さい。
パスワードをお忘れの方は
こちら
からお問い合わせください
確認画面を表示する
記事一覧へ戻る
公益財団法人
日本国際フォーラム