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2021-11-18 00:00
(連載4)バイデン政権は核の「先制不使用」宣言を出すべきではない
笹島 雅彦
跡見学園女子大学教授
一方、反対論のテルトレ氏は、「利益よりも費用が上まわり、しかも、その費用は非常に大きい」と反論する。まず、「核の先制不使用宣言でイランや北朝鮮は安心するだろうか」と疑問を投げかける。そのうえで、「冷戦時代、我々はソ連の不使用宣言を信用しなかったし、米国と同盟諸国に敵対する国々が我々を信用するか、疑わしい。それに、今日の核拡散の危険性は、西側諸国の核政策に端を発しているのだろうか」と疑問視する。不使用宣言をまじめに受け止めた敵は、「核による報復を気にしないで、戦場でわが軍に化学兵器を使用したり、我々の大都市に生物兵器を発射したり、国土に通常弾道ミサイルを撃ち込んだり、なんでもできる」と指摘する。また、核兵器は特別な兵器で、生物・化学兵器の使用を抑止できると評価する。その実例として、イラクが1980年代のイラン・イラク戦争でイランや自国内のクルド民族に対して化学兵器を使ったが、1991年の湾岸戦争では、核保有国の米国主体の多国籍軍やイスラエルに対して使用しなかった点を挙げる。また、エジプトは1960年代初め、敵対する北イエメンに対し、化学兵器を使用したが、1967年、1973年の第3次、第4次中東戦争では潜在的核保有国のイスラエルに対して使わなかった事例を紹介した。
「サバイバル」誌上の論争とは別に、日本からは、佐藤行雄・日本国際問題研究所副会長(元国連大使)が、セーガン教授に英語論文で反論している(「核軍縮のための共有責任」2010年)。佐藤氏は、「米国の関与の信頼性にとって重要なことは、宣言的な米抑止戦略を今、変更することではない」として、「核の先制使用の可能性を除外しないワシントンの政策が、米拡大抑止の信頼性にとって肝要である」と断言。北朝鮮のような国が生物・化学兵器など非核の大量破壊兵器(WMD)を使用するのを抑止する確かな手段はないが、「核による懲罰を受ける恐怖から、使用を控えるだろう」と、指摘している。
こうした戦略論争をみると、欧米諸国では、この先制不使用宣言が、核拡散と核テロの防止にどう役立つかを中心に深い議論が展開されていることがわかる。肯定派の意見は、反核運動団体などが「核の先制不使用」宣言を単に核廃絶への一里塚として、米政府に要求事項として突きつけるのとは性質が違う。むしろ、ブッシュ・ドクトリンへの対抗策として米国の先制使用オプションの手を縛ることと、核拡散・核テロ防止のために非核国の国際協力を取り付ける手段として考えている。
ただ、イラク戦争(2003年)開戦につながったブッシュ・ドクトリンを前提に、米国の先制使用オプションの手を縛る政治的意味は、今や根本的に薄れてしまったのではないだろうか。一方、非核国の国際協力を取り付ける政治的必要性はある程度、理解できる。国際社会の協調的ムードがあればこそ、核不拡散に向けた非核保有国の協力を得ることができ、政治的弾みとなろう。
しかし、国際社会に協力すべきは、イランや北朝鮮など一部の国々であり、こうした国々の挑発的行動を許したり、生物・化学兵器使用の誘因をあえて作ったりする必要性はまったくないはずだ。イランや北朝鮮が、米国による核の先制不使用宣言ののち、合理的計算に基づき、生物・化学兵器などの使用を自制するはずと、セーガン教授はみている。しかし、少なくとも北朝鮮が今後、米国人の予測可能な合理的行動を取るとは、にわかに考えられない。「核の先制不使用」宣言は、イラン、北朝鮮に対するニンジンの役割として、全く不適当に思われる。核軍縮・不拡散問題は、国連安保理決議1887に優先順位を置くべきだろう。日本を取り巻く安全保障環境は、悪化の一途をたどっている。日本は、バイデン政権に注意喚起を図っていく必要がある。(おわり)
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