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2007-09-30 00:00
改めて「官から民へ」の意味を考える
玉木亨
大学教授
「官から民へ」というと、「傲慢で自己の利権のために私腹を肥やす官僚から、国民の手に取り戻す」というイメージがある。小泉・竹中構造改革は「官から民へ」を錦の御旗にして進められてきた。しかし本当にそうだろうか。「官」が管理している限り、国の財産は、政府、国会、そして最終的に国民のコントロールの下に置かれている。そして、もし不適切な使い方があれば、国民のために国民の意向に基づいてそれを是正することが可能である。しかし、「民」に移ったら、それはもう国民全体のものではない。お金を持っていて、その持分を買い取った営利企業のものになる。そして、持分を買うのは、日本企業や日本人とは限らない。外国企業や外国系のファンドということも大いにありうるのである。つまり「官から民へ」の実態とは、「日本国民から内外の営利企業へ」ということになる危険を見て取るべきなのである。
郵政民営化における「官から民へ」の改革路線とは、まさにその危険を持っていたと言える。この本質を見過ごしてはならない。関岡英之氏が『拒否できない日本』において指摘した米国からの「年次改革要望書」に沿って郵政民営化が進められてきたという事実は、ある程度広く知られるところとなった。しかし、この点については、マスコミもほとんど報道をせず、国会論戦で竹中大臣もまともに答えなかった。自民党内には多数の反対勢力があったが、小泉流の劇場政治手法で強行突破し、小泉総理及びマスコミの作った「改革派対抵抗勢力」の図式が多くの国民の頭の中に刷り込まれ、小選挙区制の特性もあいまって、前回の総選挙では自民党郵政民営化推進派が圧勝した。「官から民へ」という改革路線の本質が多くの国民の目に見えなかったのである。
しかし、他方で実は約50%の投票者は自民党以外に投票していたのであり、あれだけのマスコミ挙げてのキャンペーンにもかかわらず、国民の半数の投票行動は郵政民営化に賛意を示さなかったのである。
さらに、今年の参議院議員選挙における自民党の敗因を見れば、それは「小泉改革の負の部分」が地方経済の疲弊、格差問題として現れ始めたことに対する国民の反発であった。このように考えると、上述のような意味での「官から民へ」の改革路線を見直す方向に国民の認識は動き始めているといえるのではないか。安倍前総理は難しい立場の中でその取組みを始めようとしていたと思えるが、退陣を余儀なくされる事態に至った。また、国民新党は民主党と共同で郵政民営化廃止法案を国会に提出しようとしたが、安倍退陣に伴う国会空転により断念するにいたった。福田内閣には、参議院選挙の結果に現れた国民の声に耳を傾け、「官から民へ」のスローガン一辺倒から脱却して、改革の負の部分の修正に積極的に取り組んでほしい。
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