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2021-11-24 00:00
(連載1)バージニア州知事選挙における「文化戦争」
村上 裕康
ITコンサルタント
バージニア州知事選挙で共和党のグレン・ヤンキン候補が勝利を収めました。バイデン大統領の支持率が低迷する中で、共和党がバージニア州知事をとることで、中間選挙2022に向けて共和党の勢いが加速しそうです。バージニア州知事の選挙戦では「学校教育で人種問題をどのように取り扱うか」が争点になりました。本稿では、選挙戦で交わされた議論について少し掘り下げて紹介します。米国において、人種差別問題は世論を分断する永年の政治問題です。「人種差別反対運動」を推進するリベラルと、「米国の伝統的価値」を守ろうとする保守が対立して「文化戦争」の様相を呈しています。報道はリベラル寄りに偏っているきらいがあり、実情は報道の内容と違っています。米国の実情を紹介したいと思います。
1.バージニア州知事選挙
11月2日に行われたバージニア州知事選挙で、共和党のグレン・ヤンキン候補が民主党のテリー・マコーリフ候補を破ってバージニア州知事に選ばれた。この選挙は2022年の中間選挙の前哨戦として位置付けられ、全米で注目を浴びていた。バージニア州は民主党が優勢なブルーステートであり、2020年の大統領選挙ではバイデン大統領がトランプ全大統領に10ポイント以上の差をつけて制している。
民主党のマコーリフ候補は選挙戦序盤では優勢でありながら、共和党のヤンキン候補に徐々に追い上げられた。選挙戦終盤になって危機感を強めた民主党は、オバマ元大統領やハリス副大統領といった党の大物に続いてバイデン大統領もみずから集会に駆けつけて、マコーリフ候補の応援演説をした。今回の選挙では、州知事だけでなく、副知事にシアーズ氏、州司法長官にミヤレス氏と共和党の候補が選ばれ、州下院も議席数で共和党が過半を制した。民主党が地盤のバージニア州における共和党の勝利は、来年の中間選挙に向けて、民主党にとって痛い敗北である。バイデン大統領の支持率は就任当初の55%から43%まで低下(11月3日付けクリアポリティック)している。政策の停滞で支持率は低下しているが、バージニア州の知事選を落としたことで、政権失速の危機が高まっている。中間選挙で民主党が上下両院の過半数を失うと、バイデン大統領は任期2年を残して求心力が低下し、レームダック(死に体)化しかねない。
政治経験のないヤンキン候補が、民選挙戦序盤の不利な状況をひっくり返して勝つことができたのは、学校教育問題について父兄の応援があったからである。マコーリフ候補は演説の中で「トランプ、トランプ・・・!」を繰り返し、州民の反トランプ感情に取り入る作戦をとったのに対して、ヤンキン候補は教育、税金、治安など「食卓の話題」(Kitchen Table Issues)に集中した。「食卓の話題」は、生活に関わるパパやママの関心事であり、ヤンキン候補はそこに焦点を絞ったのである。教育・治安の問題は州民の最大の関心事であり、教育・治安の問題に深く関わっているのが人種問題である。人種差別問題を政治化して過激化するリベラルとこれに反対する保守が対立し、「学校教育で人種問題をどのように取り扱うか」が議論の焦点になった。
2.批判的人種理論(CRT:Critical Race Theory)
今、バージニア州に限らず全米で「人種の多様性に配慮した教育」あるいは「批判的人種論」を教えようという教員組合(リベラル)とこれに反対する父兄(保守)が対立し、議論が白熱している。「多様性に配慮した教育」はオバマ大統領が提唱した「多様性と包括性」政策に基づくもので、白人に偏っている先生の割合を修正して、黒人の先生を増やすように要求している。また、人種、性別、LGBT、宗教・・・の違いによる差別を無くすことを求めている。「批判的人種論」は「白人至上主義の社会で、社会制度や法制度は白人が有利になるように出来上がっている」とするもので、「白人至上主義が人種差別の根源にある」という考え方である。人種問題が過激化する中で、「批判的人種論」の考え方を初等教育の段階から教えようという教師の動きがあり、これに反対する父兄との間で激しい議論が沸き起こっている。父兄からは、「人種差別を教えるより、読み、書き、算数を」、「人種差別教育は憎しみを教える」、「トランプ支持の子がいじめられた」・・・という抗議の声があがっている。一方、教師の側は、「私たちは人種差別について真実を体系的に教える必要がある」、「この国の歴史は人種差別の歴史である」・・・と主張して、父兄と衝突している。人種教育をめぐる父兄の抗議は全米に広がり、アイダホ州、アイオワ州、オクラホマ州、テネシー州、フロリダ州、テキサス州では、過激な人種差別教育を制限する法案が可決された。また、他の15州で同様な法律の制定を検討している。
人種差別教育に関する教育論争は、人種教育を是とするリベラルとこれに反対する保守が対立し、保守は「批判的人種理論は教室内に分裂を煽るだけでなく、米国を憎むための教育である」としてリベラルと対立している。バージニア州知事選挙で父兄の怒りに火をつけたのは、ラウドン郡のストーンブリッジ高校における性的暴行事件である。トランスジェンダーの男子生徒が女子トイレで暴行事件を起こし、被害者の父親スミスさんが教育委員会の場で抗議をしたところ、受け入れられず、スミスさんは警察官に引きずり出され拘束されたという事件が発生した。事件は隠蔽され放置されたままであったが、その後、類似の暴行事件が発生し、犯人がストーンブリッジ高校の性的暴行事件と同一犯人であることが確認された。暴行事件を隠蔽して放置した教育委員会の長は謝罪に追い込まれた。また、「多様性と包括性」教育の派生かもしれないが、学校図書館の子供用図書にLGBTQ関連の猥褻な図書があるのを見つけ、父兄は不適切であるとして学校側に抗議した。
人種教育問題が炎上する中で、カルドナ教育長官は「子供の教育で父兄は主要なステークホルダーではあってはならない」と発言している。この発言をなぞるように、民主党のマコーリフ候補は「学校で子供達に何を教えるのか、父兄が学校に文句を言うべきではないと思う」と発言した。この発言は父兄の怒りを増大させた。人種教育をめぐって、父兄と学校側の対立が炎上する中で、バージニア州知事選挙の形勢は一気に共和党のヤンキン候補に傾いた。父兄の抗議運動が全米に広がると、さらなる拡散を力で封じ込めようとする民主党政府の抑圧的な姿勢が共和党の攻勢にさらされている。教育問題は炎上して政治闘争化している。
全米で教育委員会に対する父兄の抗議が激しくなる中、全米学校理事会協会(NSBA)は父兄の抗議運動を「国内テロ」と呼んで、取り締まるよう、バイデン政権に求めた。メリック・ガーランド司法長官はFBIに対して「国内テロ」の疑いがあるとして、父兄の抗議運動を監視するように指示した。共和党は「ガーランド司法長官は父兄の抗議を国内テロと呼んでFBIを使って抑圧した」として、ガーランド司法長官を上院議会の公聴会に呼んで詰問している。(つづく)
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