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2021-11-25 00:00
(連載2)バージニア州知事選挙における「文化戦争」
村上 裕康
ITコンサルタント
3.文化戦争
米国では「多様性(ダイバーシティ)」について、(日本人から見ると)行き過ぎではないかと思えるくらいの議論あるいは慣行が為されている。そして、議論は過激化して政治闘争になり、あるいは暴動事件に発展し全米を騒がせている。黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人の警察官に殺害された事件に端を発して、黒人差別に反対するBLM運動が盛り上がった。BLM運動をきっかけとして、人種差別反対を叫ぶ過激派による暴動・略奪・破壊が横行した。BLM運動は、ニューヨークタイムスの記者の呼びかけで発足した1619プロジェクトに呼応している。「米国の真の歴史は黒人奴隷が米国に連れてこられた1619年を起点とする」として、400周年を記念して2019年8月に1619プロジェクトが発足した。1619プロジェクトは、「奴隷制の結果と黒人アメリカ人の貢献を私たちの国の物語の中心に置くことによって、国の歴史を再構成する」として、米国の歴史の見直しを迫った。BLM運動に同調して過激化した極左集団が、奴隷制度を支えた歴史的人物の像を撤去する事件も発生した。南軍司令官だったロバート・E・リー将軍の像、ジョージ・ワシントン初代米国大統領の像、セオドア・ルーズベルト大統領の像等、かつて英雄とされた人物の銅像の撤去が相次いだ。
また、1619プロジェクトに呼応して「批判的人種論」を学校教育で教える動きが広がった。「批判的人種論」は「白人至上主義が人種差別の根源にある」とする考え方で、「比較的人種論」に感化された教師は、「白人が優れているという意識が人種差別問題の根底にある」という考え方を小・中学校の生徒に教えるようになった。米国の歴史を捻じ曲げて、伝統的な価値観を脅かす「文化戦争」である。トランプ大統領は、「批判的人種論」は国家を分裂させるものとし、大統領令を発令して連邦政府機関内で「批判的人種論」を示唆するトレーニングを禁止した。また、1619プロジェクトに対抗して、独立戦争を起こして自由と平等を勝ち取った1776年を記念して愛国的な教育を促進するための「1776委員会」を設置した。
BLM運動に同調して一部の過激派は暴動・略奪・破壊活動を活発化させた。トランプ大統領は、これらの破壊行為に対して「法と秩序」をもって対処する姿勢を明らかにした。「人種差別反対運動」を擁護するリベラルと「米国の伝統的価値」を守ろうとする保守の間の熾烈な「文化戦争」である。BLM運動は、反トランプを掲げるCNN、MSNBCやNew York Timesなど主流メディアを味方につけて、共感の輪を広げた。その結果「BLM運動」は他から批判を許さない「正義」になった。「BLM運動」という言葉の意味が固定化され、BLM運動に連帯する過激派および過激思想をひっくるめて「正義」とする風潮が広がった。BLM運動に同調して、「ディファンド・ポリス(警察予算をなくせ)」運動が広がった。民主党が支配する自治体の治安はもともと悪いが、これらの地域では警察を弱体化する動きがあって治安はますます悪くなっている。
「多様性と包括性」は人種、性別、性的嗜好、に関わらず偏見をなくし差別をなくそうという考え方である。しかし、「キャンセルカルチャー」はそれとは裏腹に、相手に少しでも人種差別的な言動があると、「反正義」のレッテルを貼って、相手をキャンセル(否定)するカルチャーである。「反正義」のレッテルが貼られると、ボイコット、吊し上げ、いじめ、にあってSNS上で拡散される。「ポリコレ」、「白人至上主義」、「ウォーク(目覚め)」、「暗黙の偏見」・・・これらは、「キャンセルカルチャー」と同義の不寛容な文化のツールボックスである。「キャンセルカルチャー」は米国における「文化戦争」の一断面である。
オバマ大統領(2009年~2016年)は、格差と闘う社会的正義の実践にあたって、次の4つの命題(challenge)を掲げている。 ① 社会正義(social justice:医療、福祉、教育へのアクセス)、 ②公平性(equity:不平等なスタート地点を認識し、不均衡を是正)、③ 多様性(diversity:人種、ジェンダー、LGBT、身体障害、年齢、宗教)、④包括性(inclusion):帰属、一体感)
また、オバマ大統領は、「多様性と包括性」政策を提唱し、大統領令EO13583(2011年8月18日付)を発令して、「連邦政府職員の採用にあたって、人種、ジェンダー、性的嗜好、宗教、民族、障害の有無にかかわらず、幅広く採用する」ことを求めた。また「各政府関連機関に多様性と包括戦略計画を策定する」ことを求めた。オバマ大統領の「多様性と包括性」政策は、人種だけでなくジェンダー、LGBTQを含む性的嗜好の多様性を認めて、包括(一体化)を推進しようとする政策である。オバマ大統領の社会的正義の思想は、「人種差別反対運動」を推進するリベラルに引き継がれ、「米国の伝統的価値」を守ろうとする保守と対立しているといえる。
先日のバージニア州知事選挙において争った、人種差別教育に反対するヤンキン候補と反トランプを訴えるマコーリフ候補の争いは、米国世論を分断するトランプ大統領とオバマ大統領のイデオロギー争いの焼き直しともいえる。オバマ大統領はマコーリフ候補の応援に駆け付け、ヤンキン候補が人種差別教育反対の論戦を張っていることに対して、「偽りの文化戦争(Phony Culture War)」と切り捨てた。(おわり)
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