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2021-12-24 00:00
(連載4)拡大抑止の信頼性を向上させるために
笹島 雅彦
跡見学園女子大学教授
(ミサイル防衛批判は日本に対する否定)
第6。「戦略ミサイル防衛を制限せよ」という提案は、日本を戸惑わせるものです。ペリー氏は「言われているほど効果的ではない」と断言します。が、クリントン政権時代の国防総省にBMD局が新たに設置され、戦域ミサイル防衛(TMD)開発に乗り出したため、日本もミサイル防衛(MD)研究に協力してきたわけです。その結果、現在では日本のイージス艦にミサイル防衛システムを配備しています。「現実的な脅威に基づいて実験しておらず」、「欠陥だらけのシステムを配備」したと主張するのなら、ペリー氏自身、深く反省し、日本に謝罪すべきです。
私は2000年4月、クリントン政権時代の国防総省BMD局に単独取材し、ミサイル防衛の重要性を聞いた体験があります。現実には、米国のミサイル防衛システムは、中露による本格的な飽和攻撃に対処するものではなく、あくまでならず者国家(北朝鮮やイラン?)による一発の脅しや誤発射に備え、次なる一手を考える時間を稼ごうとする限定的目的のためでしょう。これまでの発射実験を通じて、迎撃の条件や適用可能範囲、できることできないことも分類できているはずです。核戦力が「懲罰的抑止」として機能するのに対し、ミサイル防衛は、「拒否的抑止」として機能することが期待されています。
第7。トランプ政権時代のNPR2018年版が示した低出力核弾頭(W76-2s)を搭載する戦略原潜の配備計画に関して、撤回の提言には賛成です。これは、元々の核弾頭(W76s)に換装すればよいと思います。ロシアの低出力核に対抗して同様に低出力核弾頭を用意するのは、戦略的に無意味だと思います。ロシアの思惑は、「より使いやすい核」という邪悪な発想ですが、敵対国にとって飛んでくる核ミサイルが高出力であろうと、低出力であろうと甚大な被害を受けることに変わりありません。
ペリー氏ら2人は今年11月17日付「Defense News」の意見欄で、「核戦争回避のため、バイデン大統領はバイデン副大統領の言うことを聞くべきだ」と題する進言を寄せています。これは、バイデン氏がオバマ政権副大統領時代の任期終了直前(2017年1月)、核の先制不使用や「唯一の目的」論を唱えていたことから、その発言を「核態勢見直し(NPR2022)」報告に盛り込むよう求めているわけです。背景には、国防総省でNPR2022年版の執筆担当者だったレオノア・トメロ国防次官補代理(核・ミサイル防衛政策担当)が9月に解職となり、執筆担当者が交代した人事が影響しているようです(9月28日付・POLITICO)。トメロ女史は核の先制不使用政策をNPRに盛り込むことに熱心だったと伝えられていますので、ペリー氏らは巻き返そうとしているのですね。次のNPRの内容が注目されます。
(核軍縮下の核の戦略的安定性)
長い目で見て、「核のない世界」を目指す方向性には異論ありません。ただし、その目標を目指すプロセスとして、ペリー氏が提示した内容にはほとんど賛成できず、がっかりです。アメリカのリスク解消ばかりに囚われ、同盟国の拡大抑止機能維持への配慮が欠けているからです。軍備管理交渉同様、核軍縮プロセスにおいても、核の戦略的安定性の維持に注意を払う必要があると思います。先制不使用宣言は不要だと思いますが、旧式核兵器体系の退役を進め、実質的な量的核軍縮を進めていくことは可能です。その軍縮プロセスは、米国の一方的な削減ではなく、中露と核軍縮交渉を進め、同盟諸国と核対話を重ね、検証可能な条約締結を目指して欲しいと思います。
バイデン政権は中露を「戦略的競争相手」と位置づけています。冷戦時代末期のゴルバチョフ氏は軍事力の行使に自制的だったかもしれませんが、現在のプーチン大統領はどうでしょうか。ウクライナ東部にロシア軍を配備し、現在、緊迫した情勢が続いています。中国の習近平国家主席は、覇権的行動を繰り返し、国内で人権弾圧を強めています。
こうした時代に、単に核の先制不使用政策といった宣言政策や、ICBM全廃を米国が先取りしたところで、中露の政治指導者は核政策を変更するでしょうか。国際対立の原因を見つめ、紛争の芽を摘む危機管理に取り組み、政治・経済面から国際協調の道筋はないかを探り、相互信頼醸成を育むことが先決ではないか、と思います。日本が平和主義を唱えるのなら、反核感情に流されず、国際紛争の予防や平和構築に一層の人的協力を進めることが本筋だと思います。
日米同盟の拡大抑止機能は、今後も永遠に維持できるのでしょうか。常に日米同盟のコストと便益を比較して国益計算を怠らず、「自由主義的な国際秩序」を維持すること。その秩序維持について、米国と日本やNATO諸国など同盟国にとって共通の目標として固く共有されていることが前提です。日米同盟の強化を唱えるのは、日ごろの絶え間ない外交と安全保障協力を通じて、価値観の共有を確認し、初めて拡大抑止の信頼性を高めることにつながるからではないでしょうか。(おわり)
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